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「何を言いたい」
「あなたは本当の友達を持ってる? その友達とずっと付き合って、それが一度も裏切らなかったなんてことがある?」
どういうつもりかは分からなくとも、ガムラオルスは彼女の強い意志、強い自我の片鱗に触れたと確信した。
「ワタシ達には人間にある当たり前が欠けている。誰かを騙したり、誰かを助けたり、はっきりしない態度で日和見で、うそばっかりついている人達とは違う――だから、絶対に受け入れられない」
この言葉を聞いた瞬間、彼の脳裏にはティアの姿が過ぎった。
「(確かに、あいつはおおよそ人間らしくない奴だった。馬鹿みたいに人を信じて、無理だと分かっても突っ込んで――そんな奴だったからこそ、俺は見捨てるしかなかった)」
自分の姿ではなく、この言葉がより適切な人間が認識に存在していたからこそ、それが優先されたのだ。もしそこが欠けていれば、彼は自覚することになっていただろう。
「所詮この世の中、三種類しかいないの。悪人か、偽善者か、善人か。その内の両端がワタシ達の同種――どっちかではっきりしてて、すっきりしているけど、だから偽善者には耐えられないんだと思う。あなたも同じ、だから受け入れられない」
もはや暗示のような繰り返しに、彼は強い嫌気を覚えた。
ただ、同時にそれが幼馴染みだけではなく、自分にさえ当てはまるのではないだろうか――というより、自分も近しいことを考えている、ということに気付き始めた。
格好を付けていた当時、彼は自分が唯一無二にして絶対の特別だと考え、他者は平々凡々の愚者と認知していた。
だが、それは今にしても大きくは変わらない。他人が想像を絶するほどに愚かで、自分が絶対ではないにしても強者であるという認識となった。
「盗賊ギルドなら違うと?」
「ええ、ワタシは受け入れてもらえた。だから、きっとあなたも大丈夫」
「詭弁だな。そんなに誰かに認めてほしいなら、教会にも通えば良い」
「あの人達もみんな同じ。ただ括りたがって、違うものが嫌いなだけ」
「ならば盗賊ギルドも同じだ」
「知らない癖に……何も知らない癖に!」
「知らないからこそ、だ。なら知っている火の国の方がマシだ。少なくとも、あそこの連中とは少なからず面識がある」
この意見はとても人間らしいものだった。故に、スケープはよりヒステリックになった。
「あなたは、まだ何も知らないからそんなことを言うの! 知ったら絶対に後悔して、無駄な時間を進むことになるのに!」
「お前の行く方に進んだところで、無駄な時間になるとも知れない。なら、まだ自分で選んだ方がマシだ」
「そうやって選べる人はいいじゃん。ワタシは――」
自分と同じである、という論調だったこともすっかり忘れ、彼女は否定に入った。皮肉だが、これもまたとても人間らしい反応だった。
「不毛なやり取りはごめんだ。俺は少し休む」
ベッドで横になると、彼は目を閉じた。嘔吐による疲労が少なからず効いており、すぐさま部屋を出て行くという展開を避けたのだろう。
しかし、そんな彼に対抗するように、彼女は上を取ろうとした――正真正銘に、マウントを取ろうとした。
素早く衣服を脱ぎ去り、無垢の体を晒しながらも、ほぼ無抵抗だった彼の両腕を抑えた。
驚いたガムラオルスは咄嗟に目を開け、反撃を行おうとしたが――視界に飛び込んできた状況に混乱し、思考が停止した。
「これは……」
不意に声を漏らしてしまったが、彼はそれに気付いてすらいなかった。
彼は酒を知らなかったが、それと同じように女も知らなかった。だからこそ、年相応に心を惑わされた。




