12r
――ティアのテントにて……。
入り口の布が捲られ、朝日が差し込んできたのを確認した直後、ティアは来客に駆け寄った。
「エルズ、大丈夫!? 怪我はない!?」
「あはは……心配しすぎだよ。ほら、傷一つないでしょ?」
「う、うん……うん! よかったぁ」
随分と不信感の強い反応にも見えるが、彼女の言動が言動なだけに、こうして警戒してしまうのも仕方がないことだろう。
「なにを話してたの?」
「……あーえっとだね、とりあえずエルズはティア達の仲間入りってことで」
「おーっ!」
「で、ティアと話した通りに作戦とかに関わる人になったよーって」
「おーっ!! エルズがやってくれるなら安心だねっ!」
エルズはしばらく考えた後、「えっとね、ガムラオルスさんの立場には就かないかな。エルズはティアと一緒に戦うってことになったの」と予測外の発言を行った。
この予測外はティアにしても同じことであり、久しく見せていなかった子供らしい、過剰でコミカルな反応を見せた。
「えっ、えーっ!? じゃ、じゃあ誰がやるの!? ま、まさか! エルズが分身するの!?」
「いやいや、それはさすがに無理だから……こほん、エルズの知っていることを、里の人に叩き込むってこと。それも、ガムラオルスさんと一緒に頑張っていた人達に」
彼女が選んだのは、彼女だからこそできる策だった。
自分の技術をそっくりそのまま教え込むこと、これを短期間に行うのは不可能だと断じ、ガムラオルスは自らを軍師とした。
だが、エルズにおいてはその必要性はない。一瞬にして自分の全知識を送り込む、という荒技が可能なのだ。そして、彼女自身がそれを行われた前例でもあった。
「でも、とりあえずは勉強から……かな。前の指揮系統を知らないままに教えちゃうと、逆に方針が変わって混乱しちゃうかも知れないし」
「……そうなの? 私の説明じゃ足りなかったかな」
「ううん、それは大丈夫。ただ、詳細な部分は彼らの方がよく知ってるから、そこから手探りで再現してみるつもり」
ガムラオルスという想い人を失い、心細さが増していた彼女からすると、このような発言は心強さを与えるものとなっていた。
ただ、エルズの言葉には懸念の多くが隠されており、これが短期間中に実行できるかという部分は怪しいところだった。
いくら彼女が他人の精神を自由に操れる力を持っていたとしても、該当情報を探り出すにはそれ相応の前知識が必要となる。謂わば、検索技術の部分だ。
だが、彼女の登場で山の情勢が回復方向に進もうとしているのは確定的であり、損なわれたガムラオルスの穴は埋められつつある。




