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「族長、その娘と話しがあります」
「エルズと?」
夜分も夜分、今後の展望について語り始めていた二人の前に、いつかの看守の男が現れた。
もちろん、入り口の鈴を鳴らした後である為、いきなりの踏み込みというわけではない。
「一対一で話すってこと?」
看守は何も言わず、顎で外を差した。
「……なるほどね。分かったわ」
「エルズが行くなら、私も!」
「族長はこちらでお待ちを」
「ティア、大丈夫だから。話したいっていうなら、それに答えなきゃ。対話を放棄したら、受け入れてくれるものも受け入れてもらえなくなるよ」
ここで重要なのは、信頼を勝ち取ること。
ティアを連れて行けば身の安全は確実となるが、同時に臆病者となり、また疑心を見せることになる。
身内として一族に手を貸し、その上指揮系統を乗っ取ろうというのであれば、ここで逃げの手は打てない。
「なるべく早く戻ってくるから、ティアは待ってて」
「う、うん」
そう言った後、やはり心配になったのか「あんまり乱暴なことはしないでね」と念を押した。
これに対しては頷きで答え、エルズの手を引いてテントの外に出て行った。
闇夜に包まれた里の中、看守の男は入り口に立てかけていた自前の松明を手に取り、歩みを進めた。
二人が進む間も、会話はなにも行われることはなく、エルズもまた何かを聞き出そうとはしなかった。
わかり切っていたのだ。ただの看守が個人的な用件で会いに来た、ということはあり得ないと。
そして、エルズを孤立させたのはティアの加護を防ぐ為であると。
「(十中八九、袋叩きってところね。死なない程度の制裁で受け入れられるなら、それはそれでいいけど――もしも殺す気になってたら)」
彼女が反省している、と公言したのその場限りの取り繕いではなく、本心であった。
だからこそ、多少の制裁であれば受け入れる覚悟を持っていた。そのボーダーラインが生死。死亡してしまえばティアを助けられない以上、ここは譲れない。
そして、もし相手がその線を越えていこうとすれば、彼女は手段を選ばない。あの場で後々の策を考え、語り合ったことも、最終的に自分が組み込まれると予見してのものだったのだ。
私刑の後に受け入れられるならば、それが最善。もしそれがなされなければ、彼女は神器の力を使い、この場を収める気でいた。
「連れてきました」と看守。
「族長は」
「テントで待っていてもらっています」
松明を手に持ち、待っていた者達の数は六人ほどの少数だった。
ただ、少数であることは戦力的な不足を生み出し得ない。ただ一人でさえ、地上に往けば一騎当千の猛者になりかねない者達である。
しかし、その者達の年齢が明らかに低く、年長者などが綺麗に除外されているという奇妙な光景であった。




