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「――ということだ。ガムラオルス、お前の提案……呑もう」
「ハッ」
「……だが、一つだけ聞いておきたいことがある」
ガムラオルスは黙って王の顔を見つめ、確認内容を待った。。
「本当に、壊滅できるのか」
「ああ」
「……こちらの意図を理解できているのか、改めて確認させてもらう。こちらの要求は、盗賊ギルドの壊滅――ボスもそうだが、その組織構造を完全に破壊できるのか?」
無条件で受け入れてもいい人材にもかかわらず、王は条件を厳しくした。
ただ、これは厳しいというより、彼の提案をそのままに適用したといってもいい。ギルドの壊滅と大言壮語を吐きながら、打撃を与える程度では虚仮威しもいいところである。
「……男に二言はない。やって見せよう、盗賊潰し」
「ほう、良い威勢だ。では、成果を期待しているぞ」
彼は頭を下げた後、謁見の間を後にした。
そんな彼に続くのはスケープとミネア――そして、その場で許しを得たヴェルギンだった。
「あんた、本気で盗賊を潰しきるつもり?」
「ああ」
「できると思うの? 盗賊は一般人に紛れていることもあるし、ボスの居場所なんて王家でも掴めていないのよ」
「まったくじゃ、王もそうじゃが――オヌシもあのようなできもしないことを言うものではない」
師の登場に驚いたのはミネアだけであり、風の二人は落ち着いた様子である。
「アテがないわけでもない。ボスがいるかどうかはともかくとし、連中の中核とも言える人間には繋がる」
「中核……じゃと」
ガムラオルスはスケープを一瞥した後、真正面に向き直ってから歩みを早めた。
彼は確信していたのだ。かつて決死の攻撃で痛み分けに持ち込んだ男――スタンレーが盗賊ギルド内で上位に位置する人間だと。
驕りという面もあるが、事実として《選ばれし三柱》と互角、もしくはそれ以上の実力を有する人間など、世界全体で見ても十に満たないだろう。
そのような者が組する集団の下位であるはずがない。確実に上位、それもボスに連なる人間、中枢部を知る存在である。
とはいえ、これは後付けのような思考。あの場において、確信をもって啖呵を吐いたわけではない。
後からでも大言壮語の帳尻を合わせる、という覚悟は持っていたようだが。
「あんたは火の国に付くってことよね?」
「ああ、そうなるな」
「……結果はどうであれ、あたしは歓迎するわ。あんたの実力はあたしもよく理解しているつもり」
「そうか」
ミネアからすれば、彼でさえまだ信頼できる人間に含まれているのだ。
なにせ、この国の《選ばれし三柱》は二人とも彼女の味方ではないのだ。その点で言えば、ガムラオルスは自分に協力してくれるかもしれない、という期待を抱かせるだけの要素を持ち合わせていた。
かつてのような気取りも消え、ほどほどに立場を弁えたともなれば、彼に明確な弱点はないのだ。
強いて言えば、いつか彼女がカーディナルを疑った際、それを信じなかったことくらいだろうか――それについても、善大王との一件で反省していることから、彼を責める理由にはならないだろう。
ただ、彼女はすっかり忘れていた。
自分の寿命に限りがあるのと同じように、ティアの時間も削られていることを。彼女から、大切な人と居られる時間を奪っていることを。




