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「おお、懐かしい顔だな」
ミネアに対しては常に大人としての対応を取るヴォーダンだったが、この来客には好意的な反応をもって迎え入れた。
それが彼女の気に触れたのは言うまでもないが、ガムラオルス自身は中立な感情を維持し、頭を下げて見せた。
「オヌシ、風の一族はどうしたんじゃ」
平時は王の守りを任されているだけはあり、ヴェルギンもこの場に居合わせることになった。
ともなれば、このような発言が飛び出すのも当然のこと。無論、魔力において察知していた三人は、こうした展開に驚きはしない。
「あの一族はそう遠くない内に滅びる」
「……なんじゃと」
「風の巫女が族長に任命された途端、連中はティアに全てを投げた。一人の英雄に全てを託すような者達では、先は長くない」
「あの娘を一人残した、と?」
「そうだ」
師として、この発言は見逃せるものではなかった。そもそも、彼がガムラオルスを追いやったのは、ティアの寿命を知ってのものだった。
「火の国には恩もある。この力、フレイア王に貸してもいい」
「勝手なことを……オヌシは今、この国とは何の関係も――」
「ヴェルギン、良いではないか」
ここに来て、フレイア王とヴェルギンの意見に相違が生まれた。
「聞くところでは、あの能力者が何者かに殺されたと言うではないか。あの者の実力を考えるのであれば、喪失による不足は考慮して然るべき――違うか?」
これに関しては正論の節があった。
トリーチの死については、ミネアを通じて王の耳に届いている。彼女がそれを告げる義理はないように思われるのだが、一応はフレイア軍の戦力に数えられている以上、聞かれれば答えるのが道理である。
そして、不足したとなれば補充するのも道理。幸いなことに、彼はガムラオルスの実力を知っており、彼が飛行能力を有することも理解の上である。
その上、火の国は他国との不干渉を明言した以上、今後は自国で戦力を補充しなければならない。確かな力を持ったよそ者が名乗りを上げたともなれば、これほどに好都合なことはない。
「しかし……」
「火の国とは何の関係もない、と言ったな。ならば、盗賊ギルドを壊滅してみせよう――それを見て、改めて判断してもらえればいい」
「盗賊ギルドじゃと? 今この時期にそんなことをしたところで――」
「ふむ、理に適っているではないか。盗賊共が無用な小競り合いを起こしているのは、こちらも確認している限りだ。予期せぬ行動をされる前に潰せるというのであれば、それに越したことはない」
盗賊の動向についてだが、これは《盟友》の作戦行動以前と大きく変わっていない。
その大多数を彼が引き取ったことで、当然というべきか、規模は縮小されている。
ただし、そこで消えたのは何割かという程度。盗賊ギルドが維持され、ボスであるストラウブなどが存命である以上、完全な終息にはほど遠い。
「あの者らが国に牙を剥くとは考えられん。以前のボスであればまだしも、現ボスのストラウブであれば、時勢を読み違えることはなかろう」
「そうとも言えない。雷の国――富豪共が資産を投機し、こちらを討ちにくる可能性は高い。いや、ラグーン王本人が手を引く可能性も見るべきだ。聞く限りでは、水と雷の争いも雷側が闇の国を素通ししたことが原因という話ではないか」
過去がこの場に繋がってきた。
事実、ラグーンは敵勢力に塩を送るような行為をし、水の国に甚大な被害――それを知りながら、見逃したフォルティス王も問題だが――を生み出したのだ。
その前科がある以上、ないと断言することはできない。
合理の悪道を進めば、数値的な利を得ることは確実。ただし、道を外れれば人心は離れる。そこで生まれる疑心は決して軽くはない。
「国を危機に陥れるのは、常に内外の連携だ。今も昔も、それは変わらない」
全員が全員、同じ方向を見て進むことができないのは、光の国の派閥を見ればよく分かることだろう。
どこかの勢力が頭角を現せば、当然のように反対勢力の者達がこれを叩きに行く。叩く為であれば手は選ばない、国がどうなろうとも、他国の者に利用される結果になろうとも。
国家の滅亡などが発生していないミスティルフォードにおいても、これは同じことである。定期的にこうした小競り合いが起き、それを鎮圧、もしくは軽く領分を譲るようなことが行われてきた。
前例がある以上、この保守派の王は安定の策からは外れない。




