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――火の国、フレイア城にて……。
「この魔力……まさか」
トリーチを喪い、気を沈ませていたミネアだったが、その懐かしい魔力を感じ取った瞬間に活力を取り戻した。
どこに居るのか、今どのように動いているのか、その全てが有り有りと見えていた。この火の国において、風属性の魔力を持つ人間など一人か二人のものである。
刹那、ミネアは足を止めた。
魔力の探知を得意とする彼女だからこそ、すぐに気付いてしまったのだ。
「(風属性の魔力が……二つ?)」
微弱なものであれば、このようなことが起こるのは珍しいことではない。
しかし、今回に限ってそのようなことはない。両方の魔力は、明らかに《選ばれし三柱》級のものなのだ。
その上、懐かしいものに随伴しているのは、これまた彼女がよく知る反応であった。
二つの魔力はゆっくりとミネアの傍に近づき、彼女は心臓の鼓動が加速していくのを自覚した。
そんな彼女の期待不安の混じった感情を無視するように、二人はなんのこともなく姿を現した。
「スケープ……それに、ガムラオルス」
「ミネアか」
久しい再会だというのに、ガムラオルスは感動する様子を一切見せず、軽い確認を行っただけだった。
無論、相手がそうした態度であるのだから、ミネアとて感情を揺らすことはできない。平静を保ち、喜んでいないという風に見せなければ、彼女のプライドが許さないだろう。
「なんの用よ」
「フレイア王との交渉だ」
「……交渉?」
今の彼がどこの所属なのか、実のところ彼女は全く理解できていなかった。
ヴェルギンの言いつけで山に帰ったはずだが、それ以降に彼はここに訪れていた。
つまり、その時点から一族から切れていたのか、それとも命令で外に出ていたのか。想像はできても、正しい答えを言い当てることはできない。
「あんた、今何をやっているのよ」
「里を抜けてきた。そして、この国に傭兵として手を貸す」
ミネアは言葉を失った。
これは望ましい提案であり、また望んだ展開でもあった。
しかし、何かがおかしかった。彼は何故、里を抜けたのだろうか。どうして火の国に手を貸す、という方向に進んだのだろうか。
多くの疑問が彼女の小さな体に詰め込まれ、言葉を発する機能さえも停止させた。
「謁見の間に行くんでしょ? あたしもついて行くわ」
「……別に構わないが」
彼はミネアと敵対した意識がなく、あったとしても一族に対する反抗心の方が強いとあって、彼女の提案をあっさり受け入れた。
そもそも、彼からすれば同伴者がいくら増えようとも、それは多きな問題ではないのだ。
メモに全てを委ねたわけではないにしろ、盗賊ギルドの壊滅が大きな国益をもたらすことは彼も理解しており、この取引が確実に成立すると分かっていたのだ。
そうして三人となった《選ばれし三柱》組は、王の待つ謁見の間へと向かった。
ただ、これは偶然ながらに最高の展開だった。
城への出入りはスケープによって成ったが、王との謁見を行うに際して、彼女の力では不足な感が存在していたのだ。
こうした部分を軽視する辺り、彼も彼とて世界の在り方を忘れだしているのかもしれない。
実力だけで全てがうまくいくなど、現実を何も知らない子供と同じ考えに他ならないのだ。




