表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
907/1603

13v

 眼前で繰り広げられた激戦を見てか、スケープは何かを取り繕うこともなく、ただ黙って口を開けていることしかできなかった。


「その様子……あの男とは繋がっていないようだな」

「……?」

「スタンレーだ」


 主の名を出されてか、彼女はようやく言葉を思い出し、素早く首を縦に振った。


「この時代、奴はまだ生きているのか?」

「えっ」

「奴はまだ生きているのか、と聞いている」

「あの人が死ぬはずありません」

「……ならばいい」


 彼女は鈍感であるはずだが、こと主の話ともなると、かなり敏感な反応を見せる。それこそフィアにおける善大王や恋の話と同じだ。

 ただ、やはりというべきか、鈍さに変わりはない。彼女は己の口を以てして、スタンレーとの繋がりを明らかにしてしまったのだ。

 この場は幸い、誰も見ていない。それ故に油断していたのだろうが、ガムラオルスがそれを引っ提げて火の国に向かう、という点への注意が欠如していた。


「あなたはガムラオルスさんですよね」三回目だが、やはり言う。

「そうだ」

「外見が違うのは、なんでですか?」


 いくら物忘れの激しい――他人に興味のない彼女とはいえ、さすがにここまで見違えてしまえば、気付くなという方が至難である。


「俺は明日の明日、その明日を幾度も重ねた時代から来た」

「未来」

「そうだ」


 気障(きざ)な言い回しだが、スケープはそれですぐに納得した。ここで未来と言おうものなら、その時間などを事細(ことこま)かに問答していたことだろう。


「なんでワタシを助けてくれたんですか?」

「それは最初に答えた」

「ワタシが死ぬと、困るから」

「そうだ」

「……なんで、困るんですか?」


 そろそろ煩わしくなってきたのか、彼は「火の国に戻れ。あそこであれば、師匠もいる」とらしくないアドバイスを授けた。

「逃げろって言われてます」

「いつだ」

「……昨日くらい、です」

「ならばいちいち逃げ回る必要などあるまい。一日も過ぎれば、命令は解除されるものだ」

「でも……でもっ! もし違ってたら、ワタシ――」

「くだらない。お前の失態一つを気にするほど、世は過敏ではない。それは奴にしても同じことだ」


 あまりにも直球な発言だったが、それでも彼女は黙り込まず、「そうなんですか?」と真に受けたように言う。

「ああ」


 その肯定だけで十分だったのか、スケープは状況を飲み込んだらしく、彼の手を握った。


「火の国ですよね」

「……なるべく急ぎで頼む」


 ガムラオルスは飛んで帰る気だったのだが、それを口にすることもなく、歩いて帰ることにした。

 ただ、それが理想的な展開であるのは事実だった。

 彼の翼は飽くまでも高速移動を得意としたものであり、人を抱えての長期飛行は可能な限り避けるべきである。

 ティアという妙に頑丈な相手ならばともかく、心構えができていない者を運ぶとなると――少なくとも、この展開は円滑な進みだった。


 しかし、不自然な場面だった。

 スケープがこうもあっさり従ったのもそうだが、このガムラオルスはそれに驚く様子もなく対応している。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ