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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
905/1603

11v

 彼女は口で言いながらも、自分の認識が狂ったのではないか、と困惑し始めた。

 なにせ、彼女の頭の中に存在するガムラオルスは、ここにいる男と比べて小さかった。それ以上に、若かった。

 態度もそうだが、声や顔、服装に至るまで、合致する点の方が少ないほどだ。


「なんでワタシを?」

「……」


 彼が答えないと分かるや否や、スケープは口を噤んだ。

 自身がこの世界から隔離されており、自身で考え、発声した音は他人に届かないことは分かり切っていたのだ。


 だが、ガムラオルスは振り下ろされた二撃目を察知していたらしく、これを跳ね返した。

 彼女は気付いていないが、一撃目の攻撃で魔物は片腕を引きちぎられ、痛みによって悶えていたのだ。故に、次なる攻撃は非常に読みやすかった。


「お前にここで死なれると困る」

「えっ」

「……煩わしい。お前と言葉を交わすなど無駄だったな」


 全く理解できないものの、相手が失望を覚えたということだけは察しがついた。

 とはいえ、その言葉とは対照的に、ガムラオルスからは敵意が放たれていない。


「あなたは、ガムラオルスさんですよね?」

「下がっていろ」


 彼は答えることもなく、両肩より光を迸らせ、巨大な闇に向かって飛翔した。

 撒き散らされる光粉、残光を写した彼女の瞳は、眼前にあった闇の正体を捉えた。

 紫色の外殻を持つ、六足甲虫型の魔物だ。その姿はいつか善大王が風の大山脈で戦ったそれに近く、体躯の割に動きは機敏だった。


 人間の接近を察知したのか、瞳に藍色の文字が刻まれていくが、飛行者はその眼球に目がけて超重量の剣を投げつけた。

 投剣術のそれを想起させる軌道で、剣は前転運動をしながら標的へと伸びていく。

 切っ先が眼球に突き刺さると同時に、体液が吹き出し、その表面に刻まれていた《魔導式》も四散した。


「すごい……まるで、魔物との戦い方を心得ているみたいな」

「……」


 両者間には大きな間が離れているはずだが、彼はスケープの声を認識していたらしく、小さく表情を変化させた。


『ナニモノダ……ニンゲン』


 聞こえてきた声は、この場の誰の者でもなかった。

 低く響くような声は、耳というよりも頭の中で反響し、抑揚がないにもかかわらず確実な言語の形で二人に届いた。


「お前は逃げ延びていた個体か」

『……ナゼソレヲ、シッテイル』

「やはり、か。ならば――余計に逃せなくなった」


 彼の戦い方に躊躇などなかったように見えるが、魔物の撃破を優先目標としていなかったような口ぶりである。


「(逃げ延びていた……?)」


 気になる単語が出てきたこともあり、彼女はスタンレーに伝えようとした。しかし、案の定というべきか、これが通ることはなかった。


 カッと目を見開くと、ガムラオルスは翼を広げ(・・)、急加速を開始した。

 さすがに何度も見た技である為か、魔物もこれに対応する。

 分厚い甲殻が左右に開かれると、透過性の高い薄羽根が現れ、激しく震動した。

 瞬間、鈴の音――いや、耳を覆いたくなるような高く、そして大音量の波動が発せられた。


 距離の差こそあるスケープでさえ、耳を覆ってもなお頭を揺すられるような感触を覚えていた。ともあれば、より近い距離でこれを聞いている男はただではすまないだろう。

 事実、ガムラオルスの光は明滅し、出力が乱れ始めた。体勢が崩れ、地に叩き落とされそうになるが、それでもどうにか空に身を置いている。


「(ソウルの循環を狂わす音波か。過去(・・)の生き残りなだけはある――だが)」


 火の揺らめきのように、強い不規則性に囚われていた緑光だったが、彼が目を閉じた瞬間――突如として安定した状態に復帰した。

 これには魔物も驚き(・・)、眼球を大きく動かした。

 ソウルの攪乱とは、つまりムーアの《秘術》と同質の効果である。それを自力で突破するなど、通常であれば不可能な現象である。


『オマエハ、マサカ……天使――(カラス)ナノカ!?』


 緑髪の男は何も答えず、周囲の破壊的音響を別世界の(ことわり)であるかのように扱い、平然と魔物へと迫った。

 紫甲虫は羽根を折りたたむと、残っていた一個の眼球に《魔導式》を刻み始めた。速度で勝らぬとはいえ、それ以外では対処できないと想定(・・)したのだろう。


 ガムラオルスの接近速度は凄まじく、この時代の彼が見せる最高速の数倍を叩き出していた。

 この早さであれば、間違いなく間に合う。先ほどの一着で、既に相手の術は割れているのだ。


『《闇ノ四十四番・闇風(ブラックゲイル)》』



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