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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
904/1603

10v

 ――火の国、砂漠にて……。


「ワタシは、どこに行けばいいですか?」


 夜遅く、彼女はようやく問いを投げかけた。

 逃げろと言われてから、かなりの距離を歩いたことを自覚したらしく、主に確認を取ろうとしていたのだ。

 しかし、返答はなく、彼女の声は冷たい砂粒に吸い込まれた。


「……」


 彼女は疲れていなかった。肉体も十全であり、痛みなどは微塵も残っていない。

 しかし、とても強い虚無感に襲われていた。いくら問いかけようとも、主が応えてくれないという状況に、強いストレスを覚えていたのだ。

 無論、それが怒りとなることはない。彼女は他者に怒りを覚えるほど、自身を高く評価していない。そしてなにより、そこまで他者に関心を抱かないのだ。


 怒りや悲しみが他人に影響を及ぼし得ないと知って以降、彼女にとっての感情は笑いや喜びに限定されていた。

 世界が変わらぬのであれば、せめて自分だけは変えられる感情を求めるのは、至極当然なものかもしれない。


 とはいえ、その喜楽の感情が発露するのは、飽くまでも誰かが居るとき。一人でいるときの彼女は、とても空虚で、中身のない無機質な存在だった。


「光がほしい」


 周囲は暗いものの、彼女は術によって灯りを手配していた。つまりは、光は物理的なものではない。

 彼女にとっての光とは、他でもなく他人のことだ。それも、自分が受け入れやすく、分かりやすく、そして期待を読みやすい相手だった。


 冴えた意識は時間を追う毎に鈍さを増していき、無意識で足と腕だけを交互に動かしていく。

 そうした無関心、思考の遮断が、彼女の弱点の一つだった。そこにある絶対の現実を、本当に認知できなくなるのだ。


 淡い光の届かぬ常闇の中、一対の光が煌めいた。

 藍色の光――それも、人一人ほどの大きさをした巨大な光源だ。


 それは明白であり、少しでも意識があれば気付くほどに、圧倒的な存在感を放っていた。にもかかわらず、彼女はそれを認知することもなく、歩みを進めた。


 黒いシルエットが彼女の上空に伸びると、鍛冶屋が鉄を討つように、それは振り下ろされた。


 地面の砂は舞い上がり、スケープが発動させていた術は途切れる。


「気の抜けた状態で夜道を歩くとは……死にたいのか?」

「……?」


 彼女は幾度か瞬きをした。

 今まさに、魔物から攻撃を受けたということは彼女も理解していた。しかし、その攻撃を防いだ何者かについては、何一つとして読み取れなかった。

 眼前の闇と違うのは、大きさくらいのものだろう。彼女の傍に経つ小さな黒は、間違いなくスケープに向かって語りかけていた。


「誰、ですか?」

「聞くよりも、探る努力をすべきだ」


 そう言われて指針が見えたのか、彼女は《魔導式》を展開し、灯りを都合した。

 すると、緑色の光が周囲を(ほの)かに照らし、黒い何かは次第に姿を取り戻していった。


 それを見た瞬間、彼女は言葉を失った。ひどく人間らしく、当たり前すぎる、型にはまった反応だった。


「ガムラオルスさん……ですか?」

「……ああ」


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