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――火の国、フレイアにて……。
「……今、変な感じが」
うっすらと眠気を覚え始めていたミネアは、僅かに感じた魔力に気付き、周囲を見回した。
だが、彼女の視野に収まる範囲にそれらしい現象はなく、魔力の上昇はその一瞬以降は途絶えていた。
「気のせい……? それにしても」
不吉な感触であったことは間違いない。つい先ほど、トリーチをカーディナルに向かわせたばかりとあり、彼女は敏感になっていたのだ。
「気負い過ぎね」
自分の要求が現実離れしていることに気付き始めたのか、ミネアは命令を取り消すこともなく、さっさとヴェルギン宅へ戻ろうとした。
しかし、その直後に通信術式が反応した。反応は――カーディナルで用いられているものだ。
「(通信術式は使えないはずよね? まさか、もう着いたってこと?)」
疑わしく思いながらも、彼女は応答した。
「誰?」
『俺だ、トリーチだ』
あり得ない状況に、彼女は混乱した。
この通信はアリトが何かしらの用件で繋いできた、というのが順当な線だった。
トリーチの通信など、大穴もいいところであった。
「もう着いたのかしら?」
『……カーディナルには、行くな』
「どういうこと?」
『カーディナルは《秘匿の司書》と――盗賊ギルドの内通者と通じている』
盗賊さえも引き入れているという話を聞いていた為、それ自体は予想外というわけでもなく、ミネアは驚きもしなかった。
強いて言えば、《盟友》のメンバーであり、アリトを信頼していた彼が否定的な意見を述べたことが妙だったというところだろう。
「あんた、今どこに居るのよ」
『ミネア、アリト様は戦争の黒幕と繋がっている――絶対に、行くな』
あまりに突飛な話の連続に、彼女はワケが分からなくなっていた。
「ちょっと、それってどういうことよ」
『能力者の俺と、普通に接してくれて……ありがとう』
それ以降の返答はなく、ほどなく通信は切られた。
「……どういうこと? あいつを騙った誰かが、あたしを邪魔しようとしているってこと?」
彼が通信術式を使えない時点で、それは明白だった。
ただ、問題があるとすれば、方式がカーディナルのものだったということ。つまり、亡命先の相手が妨害を仕掛けているということだった。
自分が招かれざる客である、というのが妥当な線だった。
「でも……最後の言葉、あれじゃまるで」
死にゆく者の遺言、としか思えなかった。
そんな可能性、杞憂にも等しい感触が頬を掠めた瞬間、彼女は走り出した。
強烈な魔力の放射は一瞬でしかなかったが、その場所は確かに察知していた。
範囲こそ広いが、砂漠の砂を事細かに探るよりは十分に目のある、そういう次元だった。
しかし、きっとそうでなくとも彼女は行動していたことだろう。
彼がカーディナルに到達し、別の方法で通信を飛ばしてくるのを待てば、簡単に解決する問題。だが、ミネアはその時間さえ惜しいと感じていた。
世間的に言えばただの従者であったが、彼女からすれば、トリーチは数少ない男の友人だったのだ。




