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「《光ノ百七十三番・八星撃》」
光ノ八十七番・光集による肉体強化、さらに今発動した術により、彼の肉体は二重の強化がなされた。
凄まじい速度でティアへと接近し、出現した光の片手剣で攻撃を開始する。
第一撃目の左薙ぎ、これはティアの驚異的な動体視力で避けられる。
第二撃目、両手で握った状態で自身の体を回転しながら左薙ぎを放つ。かなり重い攻撃なだけに、防御不可能と判断してティアは緊急回避に入った。
第三撃目としてすばやく片手に持ち替え、袈裟斬りを放つ。ティアは周囲から風のマナを収束させ、障壁を作り出してこれを防ぐ。
だが、善大王はそのまま左切り上げに移行して障壁を叩き割る。
善大王は追撃するように突進し、第五撃目となる刺突を打ち込み、ティアの体に突き刺さった時点で袈裟斬りに移る。
斬撃の直撃でティアの体からは多量の血が流れ出し、それまで気丈に振舞っていたティアの顔色が僅かに変化した。
風属性のマナによって構築された風の刃が飛んでくるが、善大王はそれを飛び越え、滞空状態のまま逆手に持って第六撃目の左薙ぎを放つ。
直撃を受けてのけぞったティアから目を離さず、すばやく唐竹が入る。だが、これに関してはティアが白刃取りのように防いだ。
素早く引き抜いた善大王は。フィニッシュブローとなる八連撃目に突進と刺突を同時に放つ。これに関しては攻撃速度も速く、防げるような威力でもなかった。
ティアの胸に光の刃が突き刺さり、八連続攻撃が終了した時点で剣は消滅する。
普通ならば痛みで立っていられない、そう考えていた善大王だが、それは飽くまでも考えていただけ。本気でそうとは思えない。
距離を取り、《魔導式》の展開に戻る。これだけではティアは倒せない、彼はそう確信していた。
事実、攻撃終了を見た瞬間、ティアは笑みを浮かべた。
「善大王さん、本当に容赦ないね」
「ああ、前に油断して負けたからな。今回は──殺してでも勝たせてもらう」
心を読んだフィアは、善大王の言葉に偽りがないことに気づいていた。
気づいた上で、彼はティアには勝てないと安心していた。勝ってほしいと望む反面、巫女としての立場に立ってしまったのだ。
だが、正しく言えば善大王がティアから勝利をもぎ取る可能性はある。殺すことが不可能、というだけの話だ。
生死を勝利条件とすれば終わりだが、この戦いは敗北を認めさえすれば決着がつく。ティアが折れれば勝ちとなる。
不敵に笑うティアを怪しく思いながらも、善大王は《魔導式》の展開を続行する。
「(何故近づいてこない? 傷の修復……いや、風の属性では不可能のはずだ。だとすれば──ッ! しまった)」
善大王はひとつの可能性をつぶしていた。
ティアを人間と見てしまった。あの攻撃を放たれている間、彼女はやられているだけだと考えていた。
しかし、事実は違っていた。
魔力探知を最大限に拡張し、ようやく隠されていた《魔導式》の存在に気づく。だが、その時点で完成間近であることを同時に知る。
「(百番台……俺の術は完成までまだ掛かる。解体も間に合わない、いや防ぎきれない)」
今展開されている術は光ノ百三十九番・光子弾。弱りきっているティアを倒すには十分すぎる術。
この攻防で勝てれば善大王の勝ち、負ければ負け。シンプルであり、とても難しい局面。
ただ、善大王はその時点で勝利を確信した。
今言ったとおり、この攻防で勝てれば善大王はそのまま勝利する。そして、防ぐだけの手段を彼は持っていた。
「《風ノ百二十二番・空気砲》」
ティアの術が発動されると同時に周囲の空気が一点に収束されていき、無風になる。
ドンッ、と鈍い音が鳴り、緑色をした空気の塊が迫ってきた。
その風の塊は物理攻撃にのみ特化したものではなく、目視はできないが無数の細かい刃による斬撃の効果もある。
それを理解していた善大王は、近接での回避という手を取らなかった。
「ティア、俺の勝ちだ」
右手を翳した瞬間、手の甲に刻まれた紋章が輝く。
「救──」
「ライト、それは使わないで!」
フィアの声を聞いた瞬間、善大王の意識が乱れ、使っていいのか駄目なのかを迷ってしまった。
瞬間、風の塊が善大王に直撃し、意識は一撃で飛ばされる。