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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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「……聞いてないから分からない」

「は?」

「接触をさせるなって言われたけど、しないって言われた時にどうするかは聞いてない」


 彼は理解の範疇外の言葉に驚き――というよりも、当惑した。

 普通に考えれば、消せ(・・)という意味で発せられた命令だと判断できる。

 しかし、彼女はそれを察することができなかった。言外の命令に対しては、全くの無知だった。

 そもそも、彼の言い方からして、これが拒絶の裏返しであることは明白だった。であれば、接触を防ぐべく、戦えばいいだけなのだ。


「……すみません。相手はやめてくれるらしいんですけど、どうしたらいいですか?」

「な、なんだ?」


 彼女の視線は――声の向きは、明らかにトリーチから外れていた。

 そこに居ない誰かに対して、それを聞いていたのだ。


「……はい。あっ、じゃあお願いします」

「(誰かが隠れているのか? それにしては、反応が早すぎる――まるで、返答を先読みしているみたいな……いや、そもそも彼女の言うことを予測しているみたいな返しの早さだ)」


 彼は気付いた。スケープの会話のスピードは、明らかに異常だった。

 一見すれば、それは会話の(てい)を成しているように見えるのだが、よく観察すると違和感が目立つ。

 彼女は問いを行い、最短でやり取りを終えたと言わんばかりの速度で、返答を口にしたのだ。

 相手もそうだが、スケープ自身の反応があまりにも早すぎる。もし生の(・・)人間が二人で話そうものなら、多少は処理に手間取るのが常である。


 その疑問は、すぐに無意味なものとなる。彼女はかばん(・・・)にしまい込んでいたマントを取り出すと、それを身に纏ったのだ。

 これが神器である、ということも彼は察しがついていた。ガムラオルスの飛翔を見たことで、神器という道具が如何に強力であるかも、それこそ同類に迫る勢いで知っていたのだ。


 スケープが自身の体をマント――というよりも、布だ――で隠した瞬間、彼は身構えた。

 誰に、何を聞いたのかは不明であっても、神器を取り出した以上は戦いとなる。ここからは頭ではなく、体を働かせる場面なのだ。


 刹那、幕は取り払われ、演者や小道具が取り替えられるかのように――女性的な魅力を放っていたスケープは消え、一人の男が現れた。

 舞台の幕であれば、これほどまでに安っぽい場面転換はないが、ここで用いられたのは天蓋(てんがい)よりも小さな布隠し一つだ。


 一人の女性がそっくりそのまま、男性に変わってしまった。そう感じてしまうほどに、この変化は驚きに満ちていた。


「あのような命令を出したおれもそうだが――お前も、あまり面倒な言い回しはやめておけ。このズレた女には通じない」


 この二人が、遭遇してしまった。

 《秘匿の司書》という二つ名を、かのガーネス戦によって得た――不本意ではあったが――スタンレー。

 その際、ミネアの傍に置かれていた《盟友(ブラッド)》のメンバー、トリーチ。


 互いに同じ勢力に属しているはずの者達だが、お互いに面識はない――いや、スタンレーの方にはある。

 能力者は気付いていないが、彼こそがいつかの事件の際、町の住民を殺戮した仇敵だった。


「お前は、カーディナルとどういう関わりを持っているんだ」

「……勘違いするな、おれは盗賊ギルドの人間だ」

「盗賊ギルド……まさか、ガーネスの時の――」

「ああ、あれも計画通りだった。あれで多くの仲間を、あの都市に潜り込ませることができた」


 トリーチは憤った。主の行った慈悲が、盗賊に利用されていると知り、これ以上になく義憤を覚えたのだ。


「安心しろ、なにも殺すというわけではない。あの領主に寄生し、この国を裏から牛耳(ぎゅうじ)るというだけだ」

「裏から――いや、この国だと?」

「ああ、奴はそう遠くない内にこの火の国を――砂漠を掌中(しょうちゅう)に収めることになるだろう」


 予期せぬことに、ミネアの読みは的中していたのだ。これが彼にとって、どれほどまでの衝撃だったかは想像するに難くない。

 これが明確な未来かどうかは未確定だとしても、裏から手を引いている人間がこう言っている以上、その確率は高いと見ていい。


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