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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
894/1603

激突する願い! 超常能力 対 秘術

 ――火の国、フレイアにて……。


「トリーチ、頼みがあるわ」

「……頼み?」


 二人はヴェルギンの家を離れ、フレイアの酒場に来ていた。

 以前であればうらぶれた雰囲気の者が多く、とはいえ客の数は少なく閑散としていたが、今は盛況といった様子である。

 姫が来ているというのに、それに気付く者がいないのは、彼女がフードで顔を隠していることが原因だろう。ただ、それがなくとも、熱狂によって彼女に注意を払う余裕はなくなっているはずだ。


「カーディナルに行きたいのよ」

「……カーディナルに? アリト様に何か用が?」

「そういうのじゃ――いや、そういうことかもしれないわね」


 歯切れの悪い少女に、トリーチは疑問を覚えた。彼女はずいぶんとさっぱりした性格であり、言いにくいことであっても平気で口にするような、容赦のない人物だ。

 それがここまで回りくどい――まるで普通の倫理観を持ち合わせているような言い分をすることが、彼には違和感でしかなかった。


「ミネアならはっきり言いそうだけどな」

「亡命したいのよ……もちろん、カーディナルが自国内ってのは分かってるけど、それでも亡命みたいなことだと思うわ」

「は」


 あまりにあり得ない発言の数々に、トリーチは思考を停止させた。

 それはあまりにも理解の範疇を超えており、あまりにも馬鹿馬鹿しいことだった――少なくとも、彼はそう認識していた。

 ただ、理解不明などという発言に起こすほど、彼は愚かではない。彼はミネアが如何に物事を考え、そして力を持っているのかを知っている。

 ただの子供ではないとい認識している為に、こんな突飛で支離滅裂なことを言うはずないと断じたのだ。


「待ってくれ! ……嘘だろ? 冗談で言っているんだろ?」

「冗談なんかじゃないわ! あたしは本気で言っているのよ」

「……本気だとしたら、いや、本気なんてことはあり得ない」


 一方的な決めつけにミネアは苛立つ。ただ、彼とてただ頑固なだけではないのだ。

 これが当たり前。むしろ、彼女の気が触れたと判断しない辺りは、とても強い信頼が感じられる。


「本気なのよ、やってくれるの? くれないの?」

「……本気だとしたら、なんて意味のないやり取りはしたくないが――どうして亡命なんだ? その上、どうしてカーディナルなんだ? フレイアの何に問題がある?」

「全てよ」


 トリーチはまたもや、わけが分からなくなった。

 この酒場の盛況からみて取れる通り、フレイアは今、最高潮にまで高まっていた。一時的な熱狂ということもあるのだが、明らかに活力が戻りつつあるのだ。

 言うまでもなく、それがカルテミナ大陸攻略戦が影響している。そして、勝利に導く一因となったミネアによるところでもある。


 途中で離脱こそしたが、フレイア王の成した――正確には同盟だが――偉業の効力は破格のもので、火の国での信頼は著しく回復した。

 その上、彼は防衛という部分をひた隠しにし、海洋で魔物を討っているという報告を民に伝えたのだ。


 これはおおよそ嘘ではないのだが、海上部隊の戦闘は飽くまでも首都の防衛に他ならない。南方から襲来する魔物を、集結する前に叩くという基本、当たり前をしているだけに過ぎないのだ。

 つまるところ、王の言葉はただの欺瞞(いんちき)でしかなかった。ミネアにはこれが耐えがたかったのだ。


「この国に正義なんてないわ。王がただのほら吹きで、仲間を助ける手伝いもしない臆病者なんだから――そんな人のところになんて居たくない」

「その気持ちは分かるんだが、王だって何か考えがあってのものだろう」

「考えってなによ。そんなくだらないことを考えるくらいなら、もっと単純に、ただ手を貸してあげればいいだけじゃない!」


 大きな声で言い、ミネアは机を叩いた。これには騒いでいた客も驚いたらしく、視線が一気に集まった。


「……ミネア、場所を変えよう」

「呑むの? 呑まないの?」

「それは詳しく聞いてからだ。とにかく、ここはよくない」


 不満に思いながらも、ミネアはさっさと酒場を後にした。残されたトリーチは手持ちの金――もちろん自費だ――を机に置くと、彼女を追いかけた。


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