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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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 ――雷の国、アルバハラにて……。


「ここまで来てなんだけど……あのパツキンに会いに行く理由なんて、あたしにはないしねぇ」


 普段の彼女であれば、ここで取引でも行うところである。しかし、それをしようとは思えなかったらしく、(きびす)を返そうとした。

 しかし、偶然それは起きた。


「アカリ?」

「……ツイてないねぇ」


 ただの偶然とはいえ、アカリはヒルトと再会することになった。


「なんでアカリがここに?」

「散歩さ」

「……寄っていかない?」

「仕方ないねぇ」


 具体的な展望を欠いていたこともあり、仕事人は二言返事でこれに応えた。

 気に入らない相手ということでもなく、元々は会うべくして来たということもあり、彼女は無条件でこれを呑んだのだ。


 ただ、それは彼女の主観的な認識だ。おそらく、アカリはヒルトに危険を知らせ、その上でどこかに向かおうとしていたのだ。

 警告を行うまでは、この場から離れることはできなかったはずだ。


 そうして屋敷に招かれたアカリだが、その変わりない様子に安堵を――奇妙な感触を抱いた。

 世界は変化に満ちている。カルテミナ大陸の攻略に成功し、空の鈍色とは対照的に、大陸の人々は色を取り戻しつつあるのだ。

 同時に、この雷の国はそうした色鮮やかな部分とは正反対に、凄まじい脆弱性を得ていた。ハリボテの夢を見ている者達が多い国、ということである。


 にもかかわらず、ここは変わらない。勝ちも負けも、この永遠性を砕けないと感じさせるほどに。


「パツキン、雷の国がどうなってるのか、知ってるかい」

「……活躍しているんだよね?」

「まーそうともいえるんだがねー」


 彼女の反応が悪いとみるや、ヒルトは事情に勘付き始めた。彼女はその点の直感は冴えているのだ。


「本当は違う、ってこと?」

「……パパンはいるのかい?」

「うん、いるよ」

「なら、そっちの方に案内してくれないかね。お茶はその後にでもできるしさ」

「う、うん」


 具体的な姿は見えない。それであっても、少女はアカリが大きな問題を抱え――()()げ、この場に来ているのだと察知した。


「(家にいるってことは、十中八九気付いているってことかねぇ)」


 仕事人もまた、彼女の言葉で状況を悟った。

 それであっても、一応は警告をしなければならない。それを無料で行い、かつラグーン王からの口止めを無視するなど、不合理もいいところな選択だった。

 シナヴァリアを師に持つ彼女が、ここまで合理を投げ捨てているのは、やはりヒルトへの個人的な思いが影響しているのだろう。


 ハーディンの私室に案内されたアカリは、ヒルトに先んじるようにノックもせず、扉を開けた。

 驚く様子の少女には気を留めず、彼女はずかずか(・・・・)と部屋の中に押し入る。やはりというべきか、衛兵は夫人の側に寄せられているらしく、ここは無防備だった。


 机に向かい合っていた男は、予期せぬ来客であることを瞬時に判断し、振り返った。魔力もそうだが、この屋敷には不作法な者は誰一人としていないのだ。


「驚いた、仕事人も御用聞(ごようき)きをするとは」

「まさか」

「とすると、純粋に訪ねて来てくれたか」


 アカリは何も言わず、ヒルトの方を一瞥した。

 それに応えるように、ハーディンは「部屋で待っていなさい」と厳しさを感じさせない声で言った。

 従順でおとなしいヒルトだが、この要求には僅かばかりの反抗を見せた。一度言われた時点ですぐさま帰ろうとはせず、しばらく立ち止まっていたのだ。


「パパンの言うことは聞くもんだよ。なに、茶の一杯くらいは呑んで帰るから安心しな」

「……うん」


 そこでようやく納得し、ヒルトは戸を締めて自室へと戻った。足音が遠退(とおの)くのを確認し、仕事人は口を開く。


「雷の国がどうなっているのか、知ってるのかい?」

「君が知っている方が驚きだ」

「はは、面白いことを言うねぇ。あたしゃこの国で最強の日雇いさね」

「全く(もっ)てその通りだ。だが、疑問はそちらではない――ここに来た理由はなんだ」


 かつて仕事を請け負ったにもかかわらず、ハーディンの態度は威圧的だった。


「そんなカッカするところかい? あたしゃ純粋に、パツキンの様子が気になっただけさね」

「……本当か」


 この返答には拍子抜けだったらしく、領主は間の抜けた顔を見せた。


「半々ってところさね。あの子の様子はそのついでさ」

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