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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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5y

 町を歩くアルマは、色褪せた空気をその身に浴び、気を落とした。

 無限のマナが存在するとはいえ、ここにあるのは人工の光、物質の光でしかなかった。

 人はいつ終わるとも知れない戦争に疲れ、国の右往左往(うおうさおう)によって憤り、自身で打開できない状況に絶望し始めていた。

 心の光は失われ――いや、むしろ闇の方向に傾いていた。誰が光を放とうとも、それさえ飲み込んで闇としてしまうような。


 それこそが、アルマの力が弱まりつつある理由だった。彼女自身の疲弊も影響しているものの、本質的には人々が楽観視できなくなったのが問題であった。

 笑顔や幸福の連鎖、螺旋(スパイラル)という現象は、人々が自身を純粋で曇りのない鏡であることで成立する。

 合わせ鏡のように、一つの光源――太陽を写した鏡面が、また別の鏡へと光を伝えることで、闇深き(うろ)の中でさえ照らし出すのと同じ。


 だが、今や鏡はねじ曲がり、曇り、そっぽを向いている。捉えた光は(たちま)ち消え、誰かを照らすこともなく虚空(こくう)へと溶ける。


 こんな状況で維持を図ろうとすれば、それこそアルマが分身し、全員の傍につきっきりになるしかない。ただ、それは不可能なことであり、たられば(・・・・)にさえなり得ない夢想だった。


「こんな時、善大王さんがいてくれたら……ううん、あたしが頑張らなきゃ! よおし、ちゃんと調べておかないと!」


 空元気気味な彼女を打ちのめすかのように、悲鳴が聞こえてきた。

 それは一つ二つではなく、時を追う毎に連鎖していく。終幕の余韻を帯びながらも、一人また一人と拍手をするかのような、共鳴の叫喚(きょうかん)


 城へと向かおうとしてた彼女は、咄嗟に声の方へと足先を向け、走り出した。

 近づく毎に、叫びは小さく――その数を減らしていった。


「(どうして……? 誰が来たの!?)」


 《光の門》を使うことはできたが、それにはある程度の集中が必要。今はそれよりも、いち早く現場に駆けつけるべきだと彼女は考えていた。

 そうして渦中に辿りついた時、彼女は立ち尽くした。


「え……どういう、ことなの? なんで、どうして」


 倒れる人々は、多量の血を吹き出しながらも呻き、掠れた声で助けを()うていた。

 アルマはそんな人々のことを一瞥しながらも、今まさに暴れている者の姿を捉える。


「……魔物、なの?」


 無数の屍、負傷者の中、十全な姿で立っている一人が彼女の視界を支配した。

 それは紛れもなく、人間だった。二本の足で立ち、柔らかな皮膚を持った、普通の人間だった。


 しかし、明らかに違う存在でもあった。その体からは虫の足――バッタなどのそれを想起させる、非人間的な部位が皮膚を突き破り、(うごめ)いていた。

 目に生気はなく、屍を何かが乗っ取っているような状態。これに近い状況を知っていたアルマは、すぐさま魔物だと察知した。


「寄生する魔物……? でも、こんな姿って」


 突き出ていた虫の部分は、体の中に潜り込んだ。まるで、ナイフを人体の中に無理矢理しまい込むような、痛々しい音を――血を、周囲に撒き散らしながら。


「アルマ姫、これは一体」


 背後から声が聞こえ、アルマはゆっくりと振り返った。

 そこには、いつか城壁で上級術を使用していた金髪の学生――インティが立っていた。

 その服装を見る限り、彼は正規の軍――忠軍ではなく、騎士団側のことだ――に配属されたらしく、この場にも軍人として駆けつけたようだ。


「分からないの……でも、魔物が人の体に入っているみたいなの」

「魔物が……? 確か、宰相の手記にでそれらしい魔物が記載されていましたが――これほどまで擬態できるとは」


 良くも悪くも場数を踏んできたのか、彼は信徒とは思えない冷静さで状況を観察していた。

 普通であれば、同じ国の――神に選ばれたライトロード人がこのような姿になれば、思考が止まるのが常であった。

 凄惨な戦いの中、それまでの均衡は誰に触れられることもなく、変化を始めていた。


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