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アカリは天井を見ていた。実質的には虚空を眺めているだけではあるのだが、それほどまでに現状は芳しくなかった。
雷の国は泥船どころか、船底に穴が開き、甲板は炎上している軍艦だった。
泥船であれば陸地に置いておけば、まだ救いがある。しかし、こちらは既に沖へ出ており、その上で沈む未来が確定している。
どうやっても終わる。それを彼女は感じ取った。
「(さて、どうしたものかねぇ。前に恩を売ったし、カーディナル辺りにでも高飛びするかね)」
善人過ぎる統制者のもとなど、彼女からすれば最悪に生きづらいはずの場所だった。
しかし、野良な上に悪評のある彼女を引き取る場所と言えば、雷の国かカーディナルくらいのものだろう。
「(もしくは、生き恥晒して光の国にでも戻るかね。向こうなら、先輩が隠れ蓑くらい調達してくれるだろうしね)」
善大王が大陸で活動していることを知っていた為、今の光の国は存外悪い場所ではないのだろうか、と彼女は感じ始めていた。
かの聖人と大違いなところは、シナヴァリアはとてもドライな人間であり、報酬と仕事がちょうどいい塩梅になることだろう。
少なくとも、無謀な任務や割に合わない仕事は出されない。
ただし、それは過去の話だった。現在のライトロードを支配しているのは神皇派であり、肝心のシナヴァリアは更迭されているのだ。
実質的に知人が誰一人いない場所に、一応はお尋ね者となっている彼女が向かうなど、無謀でしかない。
「どうしたものかねぇ」
「いかがでしょうか」
「……あんさぁ、こういうデカいことをその場で決めろってのは、あまりにも無責任なんじゃないかねぇ」
「確かに、ですがこちらとしては一刻も早く国防を確立しなければなりません」
「はいはい、それは理解しとりますよ。っても、考える時間くらいは寄こして然るべきじゃないかい?」
両者の意見は正論だった。故に、ラグーン王が折れるしかなかった。
「分かりました。なるべく早く、返答をお願いします」
「それと……ほい」手のひらを返し、突き出しながら言う。
「分かりました」
仕事人はしっかりと報酬を受け取り、応接間を後にした。外では数名の衛兵が待機しており、彼女に対して冷たい視線を向けていた。
「なんだいその態度、あたしゃこの国の救世主候補生さね。頭が高いよ」
「……はい」
衛兵達は退き、彼女の進行方向を開けた。
「(裏切るようなら、ここで始末する予定だったんかね。ま、先延ばしが最適ってのはどこも同じさね)」
もしそうなっていたとしても、彼女はここで数名の人間を焼き払い、それで終わっていただけのことだろう。
ただ、今のアカリにとって大事なのは今後の身の振りようだった。どこに行き、何をするか――それ以外は些事であった。
「(雷の国がやばいってことは――あのヒルトが危ないかもしれないねぇ)」
彼女が国を捨てるという状況の中、唯一思い出されたのがそれだけだった。
「(とりあえずは、アルバハラに行くとするかね)」




