6
「出て行ってください」
「いや、そんなこと言うなよ。というか、こっちは女子もいるんだからさ」
ティアに悪知恵を仕込んだことを咎められ、善大王は家から追い出されようとしていた。
「それは……いや、出て行ってください! というか、出て行け!」
「二人の仲を思ってやったんじゃないか。お前だって、女の子が勇気出して言っているんだから、断るなよ。恥をかかせるものではない」
「誰のせいで恥をかく羽目になったと思っているんだ!」
まったくもって正論だった。
「……うん、ティアの方に泊めて貰えるって。狭いけど、たぶん大丈夫だと思うよ」
「おっ、手際がいいな。よし、ならそうしよう」
あっさり引き下がり、善大王はガムラオルスに背を向けた。
「別に、お前がいらないっていうなら、構わないぜ。俺としては、可愛い子とは遊んでみたいところだからな」
「なっ……」
「別に構わないだろ? お前は拒否した。でも、俺なら拒否しない」
それだけ告げ、善大王はフィアの手を引いて歩き出した。
少し距離をとった時点でフィアが善大王に蔑みの目を向ける。
「ティアを襲うつもりなの?」
「まさか。ま、できるならしたいが、俺としては二人の仲をどうにかしたいと思っている。っても、あの朴念仁じゃ無理かもしれないけどな」
ティアの家に到着した瞬間、善大王は泣きつかれた。
「うわぁあああああああん! ガムランがぜんぜん相手してくれなかったよぉぉおお!」
「うん、あいつはたぶん駄目だ。脈はありそうだが、どうにも面倒な性分らしい」
「私、ずっとガムランと付き合えないのかなぁ……」
途轍もなく落ち込んでいるティアを見た善大王だが、このまま解決を待つのはいささか時間が掛かりすぎると判断した。
それ以上に、彼女が連続してアタックをし続けたとしても、成功するとは思えなかったのだ。
「ティア、今は堪え時だ。攻めるだけじゃ面倒くさがられる。だから、一度我慢して、相手が気になりだした時にやればいい」
「でも、気になってくれなかったら?」
「そこを待つのがいい女だ。女は待ちの姿勢、これは外じゃ鉄板だ」
かなり嘘が入っているが、それでも今のティアの状況を見ると、それでもないように思えてくる。
「うん、じゃあ少しは我慢してみるよ。でも、早く付き合いたいなぁ」
少しはティアの機嫌が良くなったか、と察知した善大王はさりげなく話を切り出す。
「なぁティア。以前にした、再戦の約束は覚えているか?」
「えっ、うん覚えているよ」
「あれは、条件を引継ぎで再戦できるということか? つまり、俺が勝ったら領地にできる、と」
迷ってくる可能性は多い、と善大王は読んでいた。しかし……。
「うん、いいよ」
「いい、のか。よし、わかった。じゃあ明日にでも再戦してくれ」
あっさりと再戦の約束を取り付けた善大王だが、すぐに不満そうなフィアの顔に気づく。
「どうしたんだ、フィア」
「ここ、ベッドがひとつしかない……私はどこで寝ればいいの?」
壁にはハンモックがひとつだけ掛けられている。拡張性という意味でいえば、あとひとつは可能だろう。
フィアはいまだにお姫様気分が抜けておらず、光の国でも最上級格のベッド──それもダブルベッドサイズ──を使って寝ている。
ガムラオルスの家では、家主であるガムラオルスからベッドを奪い取り──借りて事なきを得た。もちろん、それでも文句は言っていたほどだ。
「な、フィア。少しは我慢してみろよ」
「寝られるわけないじゃない!」
「私はハンモックでもいいよ? むしろ、ベッドは少し寝ずらいから」
ティアがあっさり譲歩し、フィアはにっこりと笑う。
「(王族だから構わないといえば構わないが、このわがままっぷりもどうにかしないとな)」
今後の課題を調べながらも、善大王はティアからハンモックを貰い、壁に掛けた。
明日は再戦、と早々に寝ていく二人の少女に合わせ、善大王も眠りについた。




