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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
88/1603

6

「出て行ってください」

「いや、そんなこと言うなよ。というか、こっちは女子もいるんだからさ」


 ティアに悪知恵を仕込んだことを咎められ、善大王は家から追い出されようとしていた。


「それは……いや、出て行ってください! というか、出て行け!」

「二人の仲を思ってやったんじゃないか。お前だって、女の子が勇気出して言っているんだから、断るなよ。恥をかかせるものではない」

「誰のせいで恥をかく羽目になったと思っているんだ!」


 まったくもって正論だった。


「……うん、ティアの方に泊めて貰えるって。狭いけど、たぶん大丈夫だと思うよ」

「おっ、手際がいいな。よし、ならそうしよう」


 あっさり引き下がり、善大王はガムラオルスに背を向けた。


「別に、お前がいらないっていうなら、構わないぜ。俺としては、可愛い子とは遊んでみたいところだからな」

「なっ……」

「別に構わないだろ? お前は拒否した。でも、俺なら拒否しない」


 それだけ告げ、善大王はフィアの手を引いて歩き出した。

 少し距離をとった時点でフィアが善大王に蔑みの目を向ける。


「ティアを襲うつもりなの?」

「まさか。ま、できるならしたいが、俺としては二人の仲をどうにかしたいと思っている。っても、あの朴念仁じゃ無理かもしれないけどな」


 ティアの家に到着した瞬間、善大王は泣きつかれた。


「うわぁあああああああん! ガムランがぜんぜん相手してくれなかったよぉぉおお!」

「うん、あいつはたぶん駄目だ。脈はありそうだが、どうにも面倒な性分らしい」

「私、ずっとガムランと付き合えないのかなぁ……」


 途轍もなく落ち込んでいるティアを見た善大王だが、このまま解決を待つのはいささか時間が掛かりすぎると判断した。

 それ以上に、彼女が連続してアタックをし続けたとしても、成功するとは思えなかったのだ。


「ティア、今は堪え時だ。攻めるだけじゃ面倒くさがられる。だから、一度我慢して、相手が気になりだした時にやればいい」

「でも、気になってくれなかったら?」

「そこを待つのがいい女だ。女は待ちの姿勢、これは外じゃ鉄板だ」


 かなり嘘が入っているが、それでも今のティアの状況を見ると、それでもないように思えてくる。


「うん、じゃあ少しは我慢してみるよ。でも、早く付き合いたいなぁ」


 少しはティアの機嫌が良くなったか、と察知した善大王はさりげなく話を切り出す。


「なぁティア。以前にした、再戦の約束は覚えているか?」

「えっ、うん覚えているよ」

「あれは、条件を引継ぎで再戦できるということか? つまり、俺が勝ったら領地にできる、と」


 迷ってくる可能性は多い、と善大王は読んでいた。しかし……。


「うん、いいよ」

「いい、のか。よし、わかった。じゃあ明日にでも再戦してくれ」


 あっさりと再戦の約束を取り付けた善大王だが、すぐに不満そうなフィアの顔に気づく。


「どうしたんだ、フィア」

「ここ、ベッドがひとつしかない……私はどこで寝ればいいの?」


 壁にはハンモックがひとつだけ掛けられている。拡張性という意味でいえば、あとひとつは可能だろう。

 フィアはいまだにお姫様気分が抜けておらず、光の国でも最上級格のベッド──それもダブルベッドサイズ──を使って寝ている。

 ガムラオルスの家では、家主であるガムラオルスからベッドを奪い取り──借りて事なきを得た。もちろん、それでも文句は言っていたほどだ。


「な、フィア。少しは我慢してみろよ」

「寝られるわけないじゃない!」

「私はハンモックでもいいよ? むしろ、ベッドは少し寝ずらいから」


 ティアがあっさり譲歩し、フィアはにっこりと笑う。


「(王族だから構わないといえば構わないが、このわがままっぷりもどうにかしないとな)」


 今後の課題を調べながらも、善大王はティアからハンモックを貰い、壁に掛けた。

 明日は再戦、と早々に寝ていく二人の少女に合わせ、善大王も眠りについた。

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