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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
879/1603

17s

 超重量の長剣の落下により、地面には小さなクレーターが作られた。

 別の戦いで勝敗がついたか、と空を見上げる四人に対し、一人だけがそれとは明らかに違う心情で空を見つめていた。


「(奴が、突如として消えた? 逃げたわけではない……明らかに、あの噴射もなく消えた)」


 ガムラオルスと戦っていた張本人、キリクだけはことの異常さに困惑し、混乱していた。


「(いや、奴は消えたわけではない。この光景、吸血鬼(トニー)が告げた状況と同じッ……! つまり奴は――)」


 全員の目が鈍色の空に向けられている中、地上の方から異音が鳴った。

 地を進む音、そして――剣を抜き放つ音。


 誰もがその音を捉え、その方向に顔を向けた。キリクだけではなく、倒れ伏している掃除烏の面々までも。


「……懐かしい空だ」


 本来ならば、持つことさえ困難な剣を、その男はあっさり引き抜いた。


「な、何者だ」キリクは言う。

「……なるほど、ここに来るわけか」男は独り言を呟く。

「貴様……まさか、あの()と同じ」


 仮面越しにではあるが、槍使いは倒れているエルズを刺すように睨んだ。


「どうやら、俺の方は少し遅れたようだな。だが、記憶に相違はない」

「記憶……だと?」

「ここでお前を退けるのが、俺の役割だ」

「知ったような口を……何者だ、言えッ!」

「その取り乱し様、あの女はよっぽどお前を痛めつけたらしいな」


 瞬間、キリクの姿は消えた。


「気取らせるまでもなく、葬ればそれで終わりだ」


 槍の穂先は男の真後ろから出現し、それに続くように使い手の姿が現れた。


「《風の太陽》、ガムラオルス。それが俺だ」


 薄茶色のローブ――その両肩部分より、緑色の光が噴射された。


 背面からの反撃、急変への焦りが、槍使いにこの状況の想定をさせなかった。

 いくら近似例が存在していたとはいえ、信じられなかったのだろう。同一人物が、別の姿となって現れる事態など。


 キリクの槍は螺旋の回転を含め、この噴射に対抗したが、届かない。

 先ほどまでのガムラオルスであれば、この噴射力の変化で体勢を崩し、中断を予期なくされていた。

 しかし、一回りも二回りも成長した彼は具合の変化をものともせず、削られた分に合わせてもう片方の出力を弱めていく。

 絶えず放射される翼の性質上、一撃での破壊は成立しない。行えるのはバランスを崩し、自爆させるという手なのだが――この男にそれは通用しなかった。


 打ち消し、打ち出しの互角の戦いは、キリクの息切れという形で収束。咄嗟に時間を飛び越え、緑光の射程外へと逃れた。


「ッ……どうなっている! 太陽(カテゴリ)の《選ばれし三柱(トリニティア)》には、時を超える力があるとでも言うのか!?」


 (にわか)には信じがたい事実であり、それを読み当てた者は誰もいなかった。

 しかし、この槍使いだけは例外といえた。自身の能力により時の制約に抵抗する使い手にとって、未来からの遡行(そこう)という現象は十分にあり得ることだった。


「未来から?」エルズは言う。

「……どういうことだ、あり得ない」ウルスは呟く。

「えっ」

「未来からやってくる《選ばれし三柱(トリニティア)》など、あり得ない」


 一度は同様の現象に巻き込まれたエルズだが、全く理解できないクオークと同様に、無知を晒した反応を見せる。


「未来の《選ばれし三柱(トリニティア)》が倫理観を失って、好き勝手に能力を使っているのかもしれませんね。ハハ、それはそれで面白いことですが」

「お前っ……!」

「さて、面白い場面が見れたことですし、ようやくあなた方を殺すことができますね」

「それはどうかな」


 ガムラオルスだった男は射程外に逃れたキリクを見逃し、白のもとへと迫っていく。


「そこの小娘に、何をしているんだ」

「なにって言いましても……拷問をして遊んでいたんですよ」

「なるほど、俺を挑発する為か」

「まさか、私はあなたが来るなんて予測していなかったんですよ。来るのか分からない客に茶菓子を用意するなんて、私はそこまで気の利いた男ではありませんよ」


 互いに目を合わせたまま、二人は構えを解いた。

 白に関して言えば、これは何の意味もない。彼はなんの動作もなく、好きな場所に移動、そして好きな術を発動できるのだ。

 しかし、それはガムラオルスも同じこと。彼もまた、《翔魂翼》による飛行によって、無動作の行動が可能。


「さて、あなたならば本当の話が聞けそうですね」


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