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「さて、お膳立ては終わりましたが――どうしましょうか、掃除烏は私の方で処理しますか?」
「……頼めるか」
「もちろんですよ。それに、先ほどの動きを見る限りでは――ここで始末しなければ、後々面倒なことになりそうですし」
この状況は、ウルスにとっても最悪な変化だった。
仮面の槍使いとガムラオルス、その戦いの行く末は未だに読めないが、少なくとも白が戦闘に加われば一瞬で決着がつく。
この場で三人もの《選ばれし三柱》が喪失するとなれば、人類側が未曾有の被害をこうむることになる――それだけは避けなければならない。
「クオーク、もうそろそろ術が使えるレベルか?」
「……はい!」
痛みが襲いかかる状態では、《魔導式》という仔細な制御を行う技術は使えない。ただ、こうして痛みに慣れ始めた状況であれば、一発を押し通すことは決して難しくはないのだ。
「いえ、それは通しませんよ」
《魔導式》を刻み始めた直後、白は突如としてクオークの真上に出現し、彼の背を強く踏みつけた。
ダメージ自体は大したことのない、ただの痛めつけ程度だ。ただし、それは《魔導式》を中断させるには十分すぎる威力である。
「がッ……!」
「やっぱり、うまくはいかねぇか」
「ええ、あなた方は餌としての役割を終えました。始末するとしても、別段問題は――いえ、むしろ消さないと上からお叱りを受けるので」
「ハッ、お前ほどの使い手が恐れる相手なんかいるものか。お前はあえて従っているだけ……秩序の維持という方針についても、全く知らないとは言い張らねぇよな」
「……さて、どうでしょう。少なくとも、知らないというのが答えですかね」
二人が何を話しているのか、掃除烏の若年組はこれが全くもって理解できなかった。
「ただ、一つ言うとすれば――私自身が経験し、知る必要はなかった。組織は遙か古、《選ばれし三柱》によって創られたのですから」
初耳の情報に、エルズのみならず、ウルスもまた言葉を失った。
「我々の活動、どこか見覚えがありませんか? 各国の建国者、初代国王達に寄り添った少女達と」
「なるほど、そう言われてみればそうだな」
「どういうことよ」
「こいつらのやってること、それ自体は巫女達――それも建国の時代の巫女と同じだ。人智を越えた力を以て、既存の常識を破壊する者――革命者を支えるという」
長い年月を生き残ってきただけはあり、ウルスの知識は新世代組のエルズを遙かに上回り、その深淵に触れていた。
ただ、その知識に対しては白も同様に持ち合わせているらしく、驚きは見られない。
「古き時代――そうですね、初代フォルティス王の頃ですか。その際の《星》に対する暴虐、それを良しとしなかった者達が、彼女達の代理を請け負おうとしました」
「だが、結局それは成らなかった……だろ」
「人にとって観測する現実こそが全て。たとえ未来から過去を変える使者が来たとして、それに気付く者がいないように――ですが、組織については明らかでしょう? 世界のほとんどを掌握した状況、もはや巫女に何を任せる必要もありませんよ」
「……そっちじゃねえよ。《星》を救うっていう根本は何一つ果たせちゃいねぇってことだ――事実、六つの国は彼女達の手によって成立した」
「それについては否定するところはありません。ですが、もはや運命はこちらが握りました。彼女達が身を削らすとも、我々が一声を発するだけで、暴力もなく革命が成立します」
「本末転倒だな。それよりなにより、今こうしてお前達が戦争を起こすことによって、巫女達が甚大な被害を被っている」
ひたすらに図星を突き、相手の怒りを誘発するような態度の切断者だったが、この黒ローブは政治や哲学を論じるように落ち着き払っている。
「正直のところ、もはや組織は破綻しているんですよ。人が増えすぎました。《番人》とされていた《選ばれし三柱》についても、世代交代によって世界に散らばった……組織は彼らの怨霊という形で存続しているだけです。私自身、それで構わないと思っています」
「どういうことなのよ、エルズにも分かるように説明を――」
「こいつはおそらく、《選ばれし三柱》だ。それも俺達、太陽柱の頂点」
「まさか、それって……」クオークは目を大き見開いた。
「《天の太陽》、俺の師匠と同じ資質を持った人間だ」




