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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
875/1603

13f

 緑色の導力を凄まじい勢いで噴射し、ガムラオルスは一閃の光となり、敵を――既に倒れているキリクに攻撃を仕掛けた。

 周囲に砂埃が舞い、エルズは目を閉じた。ウルスは微弱な炎を放出することで開眼したままに、これを防いだ。

 ただひとり、クオークだけは反応に間に合わず、砂が目に入った。笑い事のように聞こえるが、これで瞬時の行動は封じられた。


「ほら、起きてくださいよ。宿敵が来てくれましたよ」

「……私は」


 煙のように周囲を隠す粉塵は、薙ぎ払うように放出された翼によって払われ、視界は一瞬にして澄明(ちょうめい)なものに変わる。

 彼が攻撃を命中させたはずの地点には、大きなクレーターが残るばかりで、標的やその死体などは見られなかった。


 声の聞こえた方を見ると、キリクは白に肩を担がれた状態ながらも十全であった。その上、神器による精神干渉の効果も断ち切られている。


「ど、どうしてエルズの洗脳が……」

「詰めが甘いですね。あの場は少し手間が掛かっても、死に至る幻術を浴びせるべきでした。私の行動に対応する為、逃げ足を用意しながら対応したのが、失着(しっちゃく)でしたね」


 冷静に分析し、白は解説者であるかのように問題点を述べて見せた。

 だが、それは事実だった。立ち上がることのできないほどのダメージを負ってはいたが、それでも人一人を殺すには十分な精神干渉を行うことはできた。

 こればかりはエルズの力量不足というよりも、単純な臆病さ、慎重さが足を引っ張った。

 その証明とばかりに、彼女の二の矢は放たれていた。それを白に回避されたということで、完全な死に手となったが、成功していれば瞬時に敵戦力の無力化に成功していたのだ。


 安定、もしくはメンバーの生存を重視すれば悪手とも言い切れない。ただ、重要な局面で決めきれなかったのは、大胆な攻め方を避けた結果とも言える。


「ですが、どちらにしても同じことですよ。もし、エルズさんが殺す気でしたら、その時は私が助けていましたから」


 仮面の槍使いは黙ったまま、乱暴さを感じさせない様子で白の介抱を拒み、槍を杖にして自立した。


「《風の太陽》、あの時の借りを返す時が来たか」

「……やはり、俺の脅威として立ちはだかるか。ならば、ここで殺すまでだ」


 ガムラオルスの姿を見て、掃除烏の一同は言葉を失っていた。

 彼の発した言葉は紛れもなく、悪の側に立ったものだった。その上、当人の表情は非常に険しく――憎悪の感情という石膏(せっこう)を貼り付けたように、常人のそれと隔絶(かくぜつ)した顔つきとなっていた。


 エルズは彼自身に対する驚きではなく、純粋な変化に驚愕し、また恐怖した。

 彼女が、ただ顔つきが悪いだけで恐怖するような少女でないことは、周知のことであろう。

 だからこそ、彼女の内面を見ないことにはこの反応は奇妙であり、また不可解である。


「(これが……あのカッコつけてた人なの? こんなに変わっているなら、ティアはやっぱり無理矢理連れて行かれたってことなの?)」


 エルズの世界は大きく歪んだ。

 一人の男の大きな変化は、その(じつ)大きな感心ではなかった。しかし、投じられた一石が生み出した波紋は、彼女にとって重大であった。

 ティアがもしも、誘拐同然に山へと連れ戻されたとすれば、置き手紙の内容は全くの嘘ということになる。


「(……違う! そうじゃない! ティアはエルズに、助けを呼んでいたんだ……だから、山に戻るなんて書いてくれたんだ――なのに、なのにエルズは、もう二度と会えないって諦めて、ティアの……親友の助けに気付いてあげられなかった)」


 驚愕は疑念へ、疑念は自己への怒りに、そしてその果ては強く激しい後悔へと――少女の感情は振り子のように揺れ、秋の空模様のように変化を繰り返していた。


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