表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
874/1603

13s

 緑色の翼を広げ、こちらへと迫り来る存在。《放浪の渡り鳥》との異名を持つティアを想起させる要素ではあるのだが、彼女自身はこのような術を有してはおらず、またそれらしい逸話も残してはいなかった。

 にもかかわらず、ウルスはそれを予見した。

 一対の翼は純度こそ低いものの、風属性としては相当な鮮やかさを持ち、その放出量も人間のものとは思えなかった。


 そしてなにより、この場を見て助けに来る者がいるとすれば、それは彼女の他にあり得ない。むしろ、風属性使いという時点で面識のある人間は限られるのだ。


 ――しかし、彼の予想は外れた。


「《翔魂翼》のホルダー……《風の太陽》のガムラオルスさんですよ」


 その名を聞いた切断者は、全く知らない名前、初めて遭遇した同類の存在に目を大きく見開いた。

 反応こそ同じだが、エルズの方は別の意味の驚きに囚われていた。


 彼女はガムラオルスという男を知っていた。常日頃(つねひごろ)から、ティアが好きだと口にしていたガムラン(・・・・)という人物。

 ただ、それだけではなく、当人とも相対したことがあるのだ。それどころか、名前を偽りこそしたが自己紹介までした仲である。


「なんで、あの人が」

「えっ、エルズさんは知ってるんですか?」

「前にも──仕事人の時にも言ったでしょ? 巫女が光の国に集まって、会議をしたって――その時、ミネア姫の護衛についていたのがガムラオルスよ」


 その会議が行われたという時点でとんでもないことなのだが、そこに集まった面々も錚々(そうそう)たる顔ぶれだった。

 《闇の太陽》エルズ、《火の月》アカリ、《水の月》カイト、《風の太陽》ガムラオルス――そして、夢幻王の側近である、白。


「なるほど、だが分からないな。どうして火の国から助けが来る……それに、どうして奴は南下している――いや、そもそも奴がこの場に来ると、どうやって予想できた」

「……彼は《風の大山脈》から来たんですよ。ティアさんを連れ帰った一件から、それは知っているかと」


 全く初耳の情報に、ウルスはエルズの顔を見やった。

 しかし、彼女は黙って首を振るばかりで、何も口にしない。ただし、それは嘘が露見したという恐れから来るものではなく、自身でさえ知らなかった事実による錯乱がもたらした反応だった。


「(えっ……ティアがあの人に連れられて? ティアは……自分で帰ったんじゃ?)」


 木に刻み込まれた置き手紙では、ガムラオルスの存在は一文たりとも仄めかされていなかった。

 もし、恋人が迎えに来たというのであれば、ティアはそれをどんな形でも告げていたことだろう。それ以上に、自分を起こして別れをするくらいの余裕はあったことだろう――彼女はそう考えていた。


「(でも、もし無理矢理連れて行かれてたなら――ティアは)」


「さて、三人とも少しは元気になりましたか? 死なない程度にいたぶる予定なので、もう一撃を耐えられる程度には戻っていてほしいのですが」


 口調こそは穏やかだが、やろうとしていることは悪逆非道だった。

 エルズは救いに対する喜びと、親友を奪われた憎悪とを混ぜ、どうすればいいのかを迷っていた。

 ウルスやクオークもそれは同じだった。彼らからしてみれば、新手の《選ばれし三柱(トリニティア)》が味方なのかどうかも分からないのだ。


 その疑問は、良いか悪いかを定めるまでもなく、吹き飛んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ