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――エリアスの郊外にて……。
「さて、これで計画通りの進行ということになりますが」
「……私が来る必要があったのか?」
「もちろん。黒からの指名ですから――どちらかというと、私を監視させる為、でしょうね」
そう言った二人は、既に三人を撃破していた。
場面や経過が飛んだわけではない。戦闘開始直後に、三人は攻撃を受けることもなく倒されたのだ。
「ウルスさん……あれ、一体なんなん……ですか」
「あの黒ローブ、前に戦った時は目くらましを使うくらいだったはず……よ。手を抜いていたなんて、思えないわ」
三人は倒れているものの、生命は繋がっていた。
「……なんとなくだが、奴の手の内は読めた。だが、俺達を一撃で殺さないのが解せねぇ」
「まだ殺すには早いんですよ」
「なにっ……」
仲間であるはずのキリクでさえ、この言葉には驚愕を覚え、彼の顔を窺った。
「この娘だけは、始末するべきだ。子供の姿ではあるが、あの女へと変わる術を持っているとすれば――脅威だ」
「でしょうね。トニーさんも彼女に一太刀を浴びせられましたし、もう一度現れれば厄介なことでしょう。もう一度現れることができれば、ですが」
警戒されている当人からすると、この会話は理解のできないものだった。
トニーと戦った、という部分までは彼女の認識内にも存在しているのだが、勝利した事実や仮面の刺客と戦った記憶は彼女にない。ましてや、恐れられる覚えなど微塵にもないのだ。
「(……でも、これってエルズの神器が通用するってこと? あの吸血鬼には通用しなかったけど、この仮面の槍使いか黒ローブなら――)」
エルズの逡巡をウルスは察し、彼女が神器を使用するまでの時間稼ぎを買って出た。
地に臥した体勢ながらに、ウルスは手を白に向けた。その動作は素早く、対象を捉えたと同時に炎が手のひらより放出される。
それ自体が中級、もしくは上級術に相当するエネルギーの奔流に対し、黒ローブの男は口許を緩めた。
「それでは私に届きませんよ」
刹那、彼の体はエルズの真横に移動しており、その足で幼い少女を踏みつけようとしていた。
幻術使いにとって、痛覚は最大の弱点である。いくら闇属性が痛覚拡張などを有しているからといって、痛みの対処法を知り尽くしているわけではない。
これは神器を用いるエルズであっても、例外ではない。精神干渉が容易な相手であればまだしも、強者を相手取るならば微細な痛みでさえ、中断を余儀なくされるほどの痛手だ。
しかし、ウルスもまた笑い返した。
「そいつを、踏んでみるか?」
「……なるほど、さすがは手の内が読めたというだけはありますね。これじゃあ手が出せない――いえ、足ですかね」
白は冗談を口にしながら、後退りをした。
華奢な身体を蹂躙されようとしていた魔女だったが、物理的な攻撃を行われるより先に、全身を赤い炎に包まれていた。
「味方を焼かないように炎を出すなんて。さすがは《火の太陽》ですね、炎の使い方は心得ているようで」
「そうしていられるのも、今のうちだ……神器の力は、何人も破ることはできない」
「確かに。《邪魂面》であれば、私でも――それこそダークメア様でさえ、十分に効果の範疇に含めることでしょう。ですが、それは万全の状態で、それも使用者が熟練の者であればのことです」
それこそが、かつてトニーに幻術を破られた理由だった。
もし、正規ホルダーであるムーアが神器を発動させていた場合、彼であっても洗脳することは可能だっただろう。発動させ、効果対象に含めることができれば、という条件はつくが。
「目が曇っているわね」




