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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
871/1603

10f

 彼の言葉には父のみならず、戦士達も言葉を失っていた。


「先行部隊の者で、族長を助けようとした者はいたか? ティア(・・・)に助太刀したような者はいたか?」

「あ、あれは族長でなければ……」

「我々では戦うことも――」

「ならば、ティアは戦えていたというのか? ティアでさえ、あの場面では時間稼ぎがやっとだった。だが、それも安定して行えていたわけでもない――ならば、お前達は何故、そんな状態のティア……族長を一人で戦わせた」


 自己弁論のような小さな反論は、一瞬にして吹き消された。


「族長ならばどうにかなる。カルマの再来である彼女ならばどうにかなる。お前達の心中(しんちゅう)にあったのは、そうした理想への酩酊だけだ。戦いの最中、泥酔するほどに酒を飲む奴がいるのか?」


 彼はシナヴァリアのように――地上を知った先達(せんだつ)と同じく、数を数えるように物事を見定めていた。

 ただ、二人の間には大きな差があった。実務を幾年も行ってきたシナヴァリアと違い、彼は実戦仕込みの我流だ。

 故に、こうした叱責をしながら、彼は強い憤りを表情に出していた。冷静さを持ちながらも、感情を隆起させてしまったのだ。


「戦いは奇跡でどうにかなるものではない。回天(かいてん)戦術に頼り切るようでは、末期だ」


 不満をぶちまけ終えたとばかりに、彼の表情は冷えつくような冷静さを取り戻した。

 そうして周囲を眺め、戦士達の表情を窺った。そして、彼は背を向けた。


「俺は里を抜ける」

「なっ……お前なにを言いや――」

「沈む船に付き合うほど、俺は義理深くない。お前達が破滅に向かう絶頂感が恋しいのであれば、正気な俺は邪魔になるだろ」


 今の一瞥(いちべつ)だけで、彼はこれを察したのだ。

 一同の表情に共通していたのは、理解したという感情ではなく、ただ目の前の状況に応じているという――思慮も知性もない、場当たりなものでしかなかった。

 彼はそれを何よりも嫌った。他でもない、その場当たりとはティアそのものだったのだ。

 

「……ガムラオルス、里を抜けるという意味を理解しているのか」


 この騒ぎを聞きつけたのか、元族長が姿を現した。その表情は咎めるようなものではなく、中立平静なものだった。

 それを見て再び、彼は憤りを覚えた。不可解な反応だったからではない――それが、本来彼が望んでいた反応だったからだ。


「皆があなたのように()が見えていれば、こうなることはなかった」

「他者を卑下して、それで愉悦感に浸りたいのか?」

「……白痴(はくち)とでも思わなければ――この連中が同じ人間であることにひどく嫌悪することになる」

「そうか。覚悟の上か」


 ウィンダートは彼が何を考えているのか、それを理解していると言った様子で応じた。

 そして、止めようともせずに黙った。

 そんな元族長の姿に驚きながらも、咄嗟に彼の父は「なら、あの手袋を持っていけ」と言った


「……もう不要だ。ここに戻ることはない――もし戻ったとしても、その時は味方ではない」


 明確な敵対に、戦士達が携えていた武器を構えるが、ウィンダートはこれを制した。

 ガムラオルスは再び落胆し、なんの未練もなくその場から飛び去ろうとした。


「……ティアには、告げたのか?」

「今から告げに行く。あいつの居場所も、おおよそ見当がついている」


 それだけ言うと、族長補佐だった男は緑光の翼を放ち、空へと身を解き放った。

 去りゆく若人を見送り、ウィンダートは「あやつも、あのように考えるようになったわけか」と呟いた。

「……ありゃただ、意地を張ってるだけだ。ティアちゃんの下につくのが気に入らねぇって、駄々()ねているだけのガキだ」


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