表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
866/1603

5f

 ――水の国上空にて……。


「……くだらない」


 一対の緑光を尾にし、ガムラオルスはただ一言だけ呟いた。

 彼は一族を裏切り、里を抜けた。そんな彼の両手は――その皮膚は、冷たい風に触れていた。


 彼の不満は、ティアと一族の体制に向けられていた。

 ここで皮肉なのが、彼はその両者に嫌われていたわけでもなく、むしろ好かれていたというところだった。前者はともかく、後者に関しては彼も知るところである。


 ――時は遡り、ティアに別れを告げる数刻前。里にて……。


「族長補佐、大変な活躍でしたね」

「あなたが救援に来なければ、我々は――」

「……族長の身は危なかっただろう。お前達については、増援で十分に間に合っていた」


 戦士達からの賞賛を受けながらも、彼は無愛想な顔で、それに見合った冷淡な返答を行った。

 これには引き気味になる面々だが、それであっても彼の活躍は著しいものだった。


 先行部隊の戦いぶりはひどいもので、それこそ時間稼ぎをどうにかこうにか行えていたという程度。

 あれだけの魔物相手に、とすると評価に値するかも知れないが、それは地上での話。彼らは外界のそれとは桁違いの戦闘能力を持つ、風の一族――その戦士なのだ。


 だが、その後続として現れた増援部隊については、文句のつけようのないほどの立ち回りだった。

 そうすると、増援が本隊なのでは――と考えるかも知れないが、これもまた違う。

 増援の名に偽りはなく、彼らは主力などではない。一線級の戦士と比べると、一回りも二回りも戦闘能力の劣る者達で構成されている。


 ただ、彼らと先行部隊には大きな差が存在していた。

 それは一重に、戦術の差である。族長率いる主力先行部隊に対し、増援の部隊はその補佐のガムラオルスが指揮しているのだ。

 陣頭に立って戦うティアと違い、彼は士気を重要視しない、手堅い準備を以て戦っている。


 あの戦いの時でさえ、先行部隊の状況を確認する為の偵察を送り、その上で対策や戦法の構築を短時間に行った。

 戦線に立つ者はそれらが決定するまで、十分に運動を済ませ、肉体的にも精神的にも万全な状態で戦いに臨んでいた。

 こうした偵察、その結果から導き出された対策によって、ガムラオルスは一見(いっけん)もしなかった魔物の弱点を予測して見せたのだ。

 百聞は一見に()かずとは言うが、観察項目が正確であれば当人が目を用いることなく、その情景を想起することができるのだ。


「っても、お前はティアちゃんのところに行ったじゃねえか。なんだかんだいって、心配だったんだろ?」


 そう言って馴れ馴れしく話しかけてきたのは、彼の父だった。


「ああ、族長(・・)の身に危険が迫っているということは、予想していた」

「ならそれでいいんだよ。小難しいことやカッコつけなんてのは、ほどほどで――」

「あの状況、俺が行かなければ族長は死んでいた。そして、それを誰も助けないということを理解していた。だからこそ動いただけだ」

「……なんだと?」

「ティアが心配だったか、だと? 俺はあいつの族長としての側面を見ているだけだ」


 至って真面目に、気恥ずかしさをこれぽっちも含めずに発した言葉は、父親を激昂(げきこう)させた。


「お前……っ」

「俺が何か間違ったことを言ったか? ならば、どうして族長はあのような状況に立たされていた?」


 父親は反論できず、ばつが悪そうな顔でガムラオルスを突き飛ばした。


「全員、ただ酔っていただけだ。ティアは絶対無敵の武神じゃない。ましてや、伝説の英雄(カルマ)の再来などでは断じてない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ