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抵抗を諦めたかのように、男は両手をだらんと垂らした。
「……《選ばれし三柱》二人に加わっても、それについていけるだけの一般人――これは興味深いですね」
「い、一般人――」クオークは落ち込んだ。
「クセの強い俺らには、こういうツッコミ役だか天然がいた方がちょうどいいんだよ」
「それは確かに言えてますね。こちらも癖の強い人が多いんですが、私が仲裁をしなければならない状況になるんですよ」
四方を炎で囲まれながらも、黒ローブは依然として落ち着いた様子で話していた。
「冗談話すのも悪くねぇが――さっさと本題に移ってくれねぇか? お前が無抵抗で話してくれるっていうなら、この炎も消していい」
「……お気遣い感謝します。ですが、それは小さな親切ですよ」
比較的穏やかな言い方だが、その真意は大きなお世話ということだった。
木材の床が炎によって弾け、パチンという音と共に赫々とした光が散った。
吹き上がる轟音の中で、密かに聞こえたその音を捉えていたのは黒ローブの男――白だけだった。
首を傾げるクオークとは対照的に、ウルスは何かを察知したかのように炎の壁を解除した。
次の瞬間、甲高く、鳥の囀りの如く音が襲い、頑強な石壁が一撃で粉砕――貫き穿たれた。
石礫が部屋の中に散り、煙という隠れ蓑を最大限に活かしながら、無差別に襲いかかる。
両手で頭部を抑えるエルズを護るように、クオークは目や口をぎゅっと締めながら仁王立ちをした。
残る一人のウルスはというと、その発射点である穿孔部に向かって炎の刃を放っていた。
正面から来た礫はこの熱と衝撃に耐えきれず、砕けるか弾き飛ばされるかをし、掃除烏の面々に当たる石の数は少数となった。
しかし、防御の為にウルスが護身を解除したわけではない。この刃は、その役割の通りに攻撃だった。
煤の混じった煙を引き裂きながら、断頭の刃を思わせる炎は何かを捉えた。
しかし、衝突と同時に聞こえるはずのない研磨音が発せられ、続くように炎の砕ける音が部屋中に鳴り響いた。
音の、衝撃の、炎の断片によって、煙は引き裂かれ、灰白色の幕は取り去られた。
「無事ですか?」白は言う。
「……それは私の台詞だ」
煙の幕が降り、そして開けられるまでの間に、事態は大きく変化していた。
螺旋の刃を纏わせた重槍を持つ黒マント。そして、橙色の力場から解き放たれた黒ローブ。
「一歩だけ……たった一歩だけど、動かれています」クオークは震え声で言う。
「んなもん、みりゃ分かんだろ」
「そ、そうなんですけど……」
驚愕する二人とは対照的に、白は毅然と――飄々としていた。
「さて、話を戻しましょうか。私達はあなた方と戦いたい。ですが、ここで戦うと店主の迷惑に……いえ、もうなっていますが――迷惑になりますので外に行きませんか?」
「……組織の邪魔者を排除するなら、正々堂々の勝負なんか必要ねぇと思うが」
「いえ、正々堂々が私の主義でして。……こちらの相棒も、それには同意の上です。安心してください、不意打ちはこの一回だけですので」




