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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
861/1603

20v

 二人は見合ったまま、身動き一つせず――呼吸さえ忘れていた。


「……奴には見つかるなと、念を押しておいたはずだが」

「すみません……」スケープは小声で答える。

「なんの話じゃ? 神器の効果をこんな場所で話したことを、謝罪しておるのか?」


 ヴェルギンには、スタンレーの声は聞こえていなかった。それどころか、彼の気配に至るまで、何一つとして感じ取れていない。

 とはいえ、会話の内容が内容なだけに、この言葉が向けられた先には違和感を覚えていなかった。


「は、はい! そうです……すみません」

「謝って済むことではなかろうに――しかし、ワシに非がないわけでもない。オヌシが口の軽い女子(おなご)であることは知っておったんじゃからな」

「は、ハイ……」

「そこでハイというのはどうなんだ? 奴に失望されているぞ」

「そ、そうなんですか?」

「……まぁ、そうじゃな。軽薄な態度、空っぽな性格、それらから予測できんワシでもない。そうであっても、あの場ではオヌシに頼む他になかった」


 不自然なことに、自然な会話が成立していた。偶然の手助けが大きく貢献している節があるが、ヴェルギンに耄碌(もうろく)しているような様子は見られない。


「なんか、ものすごく悪く言われてないですか? ワタシ」

「オヌシが反省できないことは承知の上じゃ。それが直せないことも……な」


 スケープは首を傾げるが、彼女の隣に立つスタンレーの表情は鋭く、刺し貫くような威圧感が含まれていた。


「どうしたんじゃ、助けは呼ばんつもりかのぉ?」

「えっ」

「誰かいるんじゃろ? ……《秘匿の司書》辺りか?」


 予期せぬ名指しを受け、《風の月》である女性は青ざめ、自身の豊満な胸を見つめた。全てを観測しつくような、ヴェルギンの目から逃れようと。


「その様子じゃと、どうにもそれが正解……ということで間違いないらしいのぉ」

「そ、そんなことは……」

「あの男は、自身の存在を隠蔽する力を持つという。ワシが察知できないのは、それが原因じゃろう」


 スケープは以前として顔を青くしているが、肝心の司書はというと、口許を緩めて笑い出した。


「惜しいところまで迫ったが、これが奴の限界か」

「えっ」

「奴はおれの居場所を捉えてはいない。ただ偶然、条件と合致しただけだ――これでは足は付かない」

「……」スケープは無言で頷く。

「さて、出てこないというのであれば――少しばかり痛い目に遭ってもらうことになるが? それでも、この娘を見逃すのか」


 敵を捉えたとばかりに、熟練の《選ばれし三柱(トリニティア)》は口調を厳しいものに変えた。

 彼は手柄を歌うような男ではなく、口八丁で状況を変える男でもない。その口が発した言葉の大半は事実であり、実行予定でしかない。

 つまりは――脅しではなく、本当にスケープを痛めつけようとしているのだ。


「耐えられるか?」スタンレーは問う。

「はい」

「ならば、おれはここで退く――不完全な状態で戦えば、敗北は必至(ひっし)だ」


 ヴェルギンはスケープの奇妙な仕草などを確認しつつ、ため息をついた。

 彼女の言葉や動作は、何者かと話しているものであり、そこに――この近くに誰かが居るのは明白だった。

 それであって抵抗する様子が見られないのはつまり、拷問に耐えろと命じられたということに他ならない。


 何の意味もない痛めつけになると分かったからには、彼としても気乗りするものではないのだ。

 スケープもまた、彼の弟子なのだから。



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