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――数刻前、謁見の間にて……。
「――他国との同盟は維持すべきよ」ミネアは強い口調で言う。
「何を言う。こちらは約束を果たした。これ以上付き合う理由などあるまい」
「ある! ……あるわよ。あたしはシアンちゃんに助けられたのよ。水の国に――それに、あの戦いに勝てたのはライカのおかげよ」
「だから、どうしたという?」
ミネアは血の気が引ける思いをした。
目の前の父親は――国王は、あれほどの激戦をただの他人事のように認識していたのだ。
人でなしのような態度だが、全面的に彼を責め立てることはできない。
フレイア王は飽くまでも契約として、善大王の要求した限定的な協力に応じただけにすぎない。
そして、その契約者当人が戦いをすっぽかし、それ以降の接触を行ってこなかった以上――額面以上の行動を取る意味がなかった。
ここで譲歩でもしようものなら、これは純粋な慈善行為ということになる。
ただでさえ国内での求心力が低下している今、割が合うと断定できない手は打つことができないのだ。
全て自業自得といえば簡単なのだが、火の国の在り様を考えるに、他国と同様の解法が通用するとは言い切れない。
「……他国がどうなっても――世界がどうなってもいいって言うつもり!?」
「この国さえ残れば、その通りだ」
少女は拳を握り、父親の顔面を殴りつけた。
玉座に腰掛ける赤茶けた髪の王は、これを避けずに受けた。そして、受けた上で彼女を睨み返した。
「子供のわがままを通す場面ではない」
「あたしをずっと戦いの道具として使ったくせに、一生に一度の――娘としてのわがままさえ聞いてくれないっていうの?」
「別のことなら考慮しよう。だが、この件は譲れない」
シアンと同じ道を歩む、これ以上に彼女が望むものはなかった。
彼女は《星の秘術》による救いなど、初めから望んでおらず、求めてもいなかった。
だからこそ、このわがままは正真正銘の、一生に一度の願いと言える。
「なら……なら、もう国なんてどうなってもいいッ! あたしは絶対に譲らない! いつ終わるか分からない今を、少しでも長くシアンちゃんと過ごしたいのよ!」
舞姫を覆っていた魔力は著しく変化し、室内の空気が熱を帯びた。
導力の出力もそうだが、この魔力の上昇はそれだけではない。これは、巫女が周囲のマナを収束させ、自身の肉体に取り込む際の現象だ。
ヴォーダンは、娘の姿を見て驚きこそしたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
そして……フレイア王として、火の巫女に停止命令を放った。
「やめておけ」
「フレイア王、あなたはこの世界の害よ。《火の星》としてあなたを――」
「ミネア、王に手をあげるなら……ワシも黙ってはおらんぞ」
師であるヴェルギンの介入は予期していなかったらしく、ミネアは動きを止めた。
「師匠……そこを退いてください」
「《選ばれし三柱》の力を私用で使うのは、看過できんのぉ――《星》であれば、そのくらいの心得はあると思ったんじゃがなぁ」
「師匠は知らないからそんなこと言えるんですよ。あたしはもう――」
「ワシは知っておる……ヴォーダンも、じゃな」
ヴォーダンは無言でかぶりを振り、目を瞑った。
「……知ってたの? 知ってて、聞いてくれないの?」
父親が何も答えないことに憤り、ミネアは《魔導式》の展開を開始した。
呆れ果てたとばかりに、ヴェルギンは指を鳴らす。
すると、この様子を隠れて見ていたスケープが姿を現し、ミネアに会釈した。
「やるならワタシも付き合いますけど、どうします?」




