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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
857/1603

16w

 ――火の国、フレイアにて……。


 ミネアは黙っていた。


「せっかくシアンちゃんと仲直りできたのに……なんで」

「ミネア様ってソッチの()があったんですか?」スケープは茶化すように言う。

「誰もあんたに言ってない!」

「うぉお……マジで怒ってますね」


 怒り方は普段のものと違い、真に憤りがにじんでいた。

 彼女からすれば、シアンとの和解はなによりも望ましいものだったのだ。

 一度は術が使えず、覚えようともしないという理由で別れた二人だったが、攻略戦という大舞台でシアンは術を使ってみせた。

 それだけが理由ではないのだが、とにかく二人の《星》は同じ道に戻りかけていたのだ。それを再び分かつことになったのは、彼女の父親だった。


 さすがに今回は我慢できる問題ではなかったらしく、ミネアはフレイア王に対して直談判を行った――が、結果は言うまでもないだろう。


「それにしても、()った拍子に暴れ出すなんて……ハジけてますね、ミネア様」

「……」


 憎悪を覗かせる瞳に睨らまれ、「うぉ……」と声を漏らしながら、スケープは退いた。


「八つ当たりはひどくないですか? ワタシだって、ミネア様を止める為に頑張ったんですよ」

「誰が止めろって言ったのよ」

「師匠です」

「そんなの知ってるわよ!」


 失敗に終わった最大の要因は、彼女の師匠でもあるヴェルギンだった。

 今回の説得は言葉だけでは済まず、ミネアが実力行使に出たのだ。

 《火の星》がホームグラウンドである火の国で戦うというのは、対峙する相手を抹殺することに他ならない。


 あってはならないことだが、ここでフレイア王殺し――もしくは交渉――が成功していれば、組織の陰謀は空振りに終わるところだった。

 しかし、運命は常に強者が確定していく。組織が放った三国同盟取りの策が打ち破られることを、世界は拒んだのだ。


 対巫女戦に限って言えば、《雷の太陽》に(まさ)る者は居ない。

 その上、《風の月》であるスケープまで止めに入ったのだ。天下無双の《星》とはいえ、ここまでされてしまえばなす術がなかった。


「こんなことなら、アリト……さんを王にした方がマシよ」

「あの人はやめといたほうがいいですよ」

「……なによ、あたしをからかって楽しい?」

「いえいえ、ミネア様を想ってですよ。だってアレですよ? 吸血鬼もバッチコーイって感じの人じゃあ、物騒な――」


 わざとらしく両手で口を押さえるが、本人は天然でこのようなジェスチャーを取っていた。

 ただ、いくら怒りに囚われているミネアだとしても、ここまでの発言になれば見逃しようがなかった。


「……なんであんたが、それを知ってるのよ」

「えーっとですね。あれですよ、うん……師匠から聞きました」

「師匠が知るはずないわ。吸血鬼(かれ)は古参の《盟友(ブラッド)》じゃないのよ?」


 こりゃしまった、とでも言いたげな顔を見せた後、スケープは観念したように「うんうん」と唸りながら頷いた。


「嘘です」

「それは分かってるわ。大事なのは、それをどこで知ったのか、よ」

「……わか、りません」

「こんな時につまらない嘘をつくんじゃないわよ」


 ミネアは頭に血がのぼっているらしく、迷うこともなくスケープを蹴りつけた。

 飄々としている女性だが、彼女は白やライムのように腹黒いわけではない。だからこそ、このような不意の一撃を回避するだけの観察能力はなかった。


 暴力を受けたスケープは亀のようにうずくまるが、それで舞姫の憤怒が収まるはずもない。


「あたしはシアンちゃんと一緒に居られればよかったのよ! それを邪魔する奴は誰であろうと――」


 ミネアの声は、スケープに届いていなかった。

 彼女の意識は、ここにはなかったのだ。


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