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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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15Δ

 ――首都フォルティス、冒険者ギルド本部にて……。


「よく平気で居られるものだな」

「あなたがそうなるように仕向けているのでは?」


 向かい合っていた二人は、奇妙な取り合わせだった。

 各地で暗躍する秘術使い、冒険者ギルドの若き統率者。このように言うとあり得るかもしれないが、スタンレーを盗賊ギルド所属とすると奇妙である。


 冒険者との間に密約を結ぶ盗賊ではあるが、クリーンな方面で働きかけているサイガーが彼と会うなど、危険極まる行動だった。

 とはいえ、心配の種である司書は得意の《秘術》を用いることで、その存在を探知されることもなく、この場所に現れたのだ。故に、誰かに見つかるという可能性はない。


「あいつの能力を用いたところで、そこまでの拘束は行えない。貴様もまた、利用する気だろう?」


 あいつ、とはスケープのことを指しているのだろう。事実、彼女はサイガーと接触を図っている――その際に何かを行ったとしても、驚くには(あたい)しない。

 問題なのは、その当時からスタンレーがこの展開を読んでいたというところだ。


「利用? さて、なんのことでしょうか」

「シラを切るか」

「あなたと繋がっている以上、こちらに隠し立てはできるものではないでしょう? ……しかし、本体が来るとは思いませんでしたよ」

「用事を終えたついでに寄っただけだ」


 用事、とは掃除烏との戦いを指しているのだろう。あの激しい戦いの後だというのに、彼の消耗は微量で済んでいる。

 というより、彼らとの戦いに命を賭けていなかった、というだけのことだろう。


「本当に、それだけでしょうか」

「……組織からの影響を教えろ」

「冒険者の特権成立、それに際して貴族に働きかけたようです」

「なるほどな、こちらの情報とも符合(ふごう)する」


 スタンレーがこの場に訪れたのは、組織から回された任務、その本意を掴む為だった。

 ライオネル領主の役目は、ブランドー傘下の貴族を取り込み、冒険者特権を確立させることだったのだろう。

 聞くまでもなく、彼はこれと同様のことを推理していた。

 各所の勢力と独自に接触している為に、知識の手札が組織のそれに迫っているのだ。だからこそ、どういった意図で動いているのか、なども知りうる勢力の変化から察知できる。


「こちらからも質問を――特権が他国に広まる可能性、どうみますか」サイガーは問う。

「おそらく、水の国での確立に連動し、他の二カ国でも適用される。少なくとも、火の国は確実に乗ってくると見ていい」

「人道主義者の次期領主、ですか」


 スタンレーは何も答えなかったが、否定の色は僅かにも感じられない。

 カーディナルの――アリトの孤軍奮闘具合を見るに、彼としても外部からの協力者は喉から手が出るほどほしいところだろう。

 冒険者ギルド側としても、そうした戦力需要のある領主――それも影響力の高い者の要求であれば、援助は惜しまないことだろう。

 現在の情勢を考えるに、カーディナルさえ了承してしまえば、それで砂漠の民の総意は確定する。


 十中八九、これは成立することだろう。なにせ、カーディナルは組織から多くの軍事的支援を受けており、多くの修羅場を切り抜けられたのも派遣員達によるところが大きい。

 自前戦力への執着はなく、こうした外部戦力の有用性を悟っているというのも、旧態依然のそれとは大きな差異である。


 こうして見ると、理想的な流れのようにも感じられるだろう。善大王の提唱した、ミスティルフォード同盟とは別の形だが、実態は限りなく近い。

 民だけを考えるのであれば、文句なしの理想。ただし、この先の筋書きは以前に述べられたものと同じ――国家の没落、それによる《星》という均衡装置の機能停止だ。


 《星》は世界を管理する為に創られ、その力を有しているが、副次的な効果で人間社会の秩序さえも守っていた。

 自国領地において、無敵の国防装置として機能するそれは、各国の争いを止める役割を果たしている。

 攻め込む場合、矛と盾の戦いが成立せず、防衛側に遅れを取ってしまう。

 攻め込めないが絶対に守れる、これこそが強みである。多かれ少なかれ、彼女達の威光で国家間の問題が解消している節があるのだ。

 ただ、この調和が崩された瞬間、人々は戦いを開始する。国家という枠組み、自身を守る神の加護を失ったら最後、無法地帯が生まれるのは必然。


 そして、それこそが組織の狙いでもあるのだろう。これが成立すれば、今現在のように手を回す必要もなく、ただ見ているだけで争いが発生する。

 そうなれば、競い合うように技術が発展し、人は進化することになる。


「……組織と関わったのは正解だったか」


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