13χ
「お、お前……っ」
「あらあら、組織のボスともあろうお方が、ずいぶんな慌てようではありませんの?」
口調こそは普段通りだが、その声色は安い挑発のような――急き立てるような、敵愾心を含めたものだった。
「水と雷が通じている程度、たしかにたいしたことではありませんの。ですが、その場合は二国と《天光の二人》が繋がったまま、ということになりますが?」
「くっ……」
これこそが大きな抜け目。目立った被害がなければ、火の国だけが抜けたところで、憤りは小規模にして一カ所だけで済む。
しかし、ライカという均衡の要、実の娘を奪われたからには――奪還作戦を行うのは当然という思考に変化するのだ。
こうなると、火の国の契約満了による脱退は成立せず、怒りは不義な行動をした者へ向けられる。卑怯者や狡い者ではなく、人でなしとなるのだ。
そんな人物を組み入れた善大王。ここにも疑心が向き、全ては彼が調停できなかったことが原因、といった形で怒りの矛先が変わる。
そうなってしまえば、火の国との連携断絶、戦争終結に意欲的な《天光の二人》封じが成立する。後にも今にも、大きなダメージを与えことになるのだ。
これがもし、水と雷の同盟が維持した状態で、善大王とフィアが加わっていれば――攻略戦直後に追撃の如く、本土強襲が組まれたことだろう。
ミネアという高火力砲を欠いた状態であっても、二カ国分の戦力、そして対魔物戦最強の《皇》、《天の星》が居れば作戦決行は現実の域だ。
「――ライカちゃんの話に戻しますわ」
気分を切り替えたように、ライムの顔には余裕のある笑みが戻った。
「ライカちゃん誘拐は、わたくしの独断ではありませんの」
「何を根拠に――お前は信用できねぇ」
各地の色物を掌握し、その頂点に立っても不足を見せないだけはあり、黒は強気な態度を崩さなかった。
ただ、ライムはただの感情で動いているわけでもないらしく、この態度に関しては不問とばかりに返答を行った。
「ダークメア様の意図で動いていますのよ。組織でも、闇の国でもなく」
「……親父が?」
「白様も詳細は知らない、とのことですわ。ですが――あの様子だと、思い当たる節があるといったところですわね」
「白が? お前に聞いたのか?」
「ええ、あちらは収容場所には見当が付いているようで。それでも、侵入が不可能と観念してくれましたわ」
獰猛な表情が、その凶悪さを一層増した。
彼は奇妙な動きをするライムを嫌うが、それは親を同じくする白であっても例外ではない。
彼もまた、予期せぬ動きをすることが多い。いつかディードと協力した時もそうであり、黒からすれば厄介者であった。
とはいえ、二人が目的を同じくしているという自覚がある上、彼の行動の多くがダークメアの利となるだけに、その行動の多くを見逃している節があった。
だが、理解していても気が立つのは抑えられない。
なにより、彼は白がダークメアの密命で動いている、という認識をしているのだ。片方だけが特別視されていると感じれば、妬くのは当然のことである。




