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――オーダ城付近にて……。
「イーヴィルエンター……か」
「情報から判断するに、秘密結社だったみたい。戦前から――ううん、もっと昔から、ミスティルフォードの各地に繋がりを持っていたって」
「……陰謀論みたいな話だな」
「あながち、そうとも言えないわ。エルズが諜報部隊にいた時代にも、怪しい実験をしていた集団の殲滅命令が出ていたのよ」
幼いながらに、圧倒的実力を誇っていた彼女は、闇の国でも厄介な仕事を命じられることが多かった。
殲滅命令、とはいうものの、その実態は研究成果の強奪だった。そして、上の意図の通りか、エルズは回収した資料などに関心を示さなかった。
「今考えると、あれは組織と関連した人達だった――んだと思う」
「貴族じゃなくても、変な連中は多くいる。それと紐つけるのは浅はかじゃないか?」
「違うのよ、エルズが襲った場所の大半は普通の人が運営していたわ。ブランドーみたいな悪い貴族ってこともなく、仕事のついでにやってる感じだったのよ」
「普通の人、か」
一般人がそう言うのであれば、観察能力が低いと一蹴できる。ただ、《闇の太陽》にその文句は通用しない。
「冒険者ギルド、盗賊ギルド、教会……たぶん、もっと小規模な集団も少なからず関わっていると思うわ」
「確かに、そう言われてみれば居た気がするな――盗賊がどうやって依頼を取ってるか、知ってるか?」
唐突な振りに、エルズは首を傾げた。
「冒険者みたいなことをしていたの?」
「馬鹿、こっちは盗みの依頼や殺しが大半だ。中には妨害工作から密輸なんてものもあったな」
今でこそおとなしい盗賊ギルドだが、以前──次期ボス候補の派閥争いが行われていた頃だ──はそれが当たり前だったのだ。
とはいえ、いつの時代も主力は違法薬物の取引なのだが。
「アジトのある場所で、通しを使った依頼なんてものがあったが、あれはほとんど機能しちゃいねぇ。当たり前だろ? 盗賊に身分を知られたがる奴なんていねぇよ」
「……じゃあ、仲介する人がいたってことね」
「ああ、盗賊は大して気にしていなかったが、連中は貴族と盗賊を繋いでいたみたいだ」
身分割れ、というのが大きく影響するのは貴族である。ただの民であれば、そこまで問題のないことだろう。
逆に、貴族はその場所に立ち寄ったという情報でさえ、命取りになる。
それこそ、大昔の盗賊は貴族の弱みを握り、依頼料以上の利益を得ていた面があった。
だが、今では単純な金銭関係。金さえ払えば仕事を果たし、終わればそこで綺麗さっぱり――という流れである。
総合的な収支はそちらの方が上なのだが、盗賊の支配力は大幅に低下した。
「連中の介入で、確かに仕事はしやすかった。依頼は腐るほどあったし、密輸のリスクも大幅に軽減されていた。だがな、それで盗賊は繋がりを絶たれたんだ」
「組織の狙いは金じゃないってことね」
「スタンレーの言ってたことからも、その感触はあったがな。連中は組織を方舟にするつもりなんだろうな」
国家を滅ぼした後、世界が存続できるような人材を用意する。ただの破滅主義者や、物語の魔王とは違う動き方である。
「だが、やっぱり俺の意見は変わらねぇな」
「……理想を捨てたやり方が云々ってところ?」
「ああ、奴らのやり方でうまくいくのは良くて百数十年程度。その頃にゃまた今と同じ状況になってるだろうよ」
「弱みを握るやり方なら、今とは違うと思うけど」
「お前は爺さんや曾爺さんの悪さをいちいち覚えているか?」
結局のところ、何世代かまたいでしまえば、血盟の仲であっても赤の他人である。
そう考えてみると、最初から欠陥をもって生まれた仕組みでしかないのだ。善大王もまた、彼と同じくその弱点に気付いていた。
「ま、そういうことだ。俺があの未熟者に入れ込んでるのも、そう考えているからだ」
「……それについては、分からないわね」
肝心の本人はというと、二人に話を聞くなと言われたこともあり、離れた後方からお呼びが掛かるのを待っていた。
 




