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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
842/1603

変わりゆく世界

 ――風の大山脈にて……。


「(ちょっとマズイかな……)」


 風の大山脈の中腹にある、開けた平原地帯での戦いは、熾烈を極めていた。

 藍眼の魔物が一体、鈍色の魔物が二体という重い編成であると同時に、歩哨である羽虫も大量に引き連れている。

 世界に何かしらの変化が起きている、ということを表す指標でもあったのだが、今の彼女たちにそれを観察する余裕はなかった。


 今までは気配隠蔽などを用いた、隠密接近型が本拠地である里周辺にまで迫り、苦戦を強いられるということが往々にして発生していた。

 無論、その対策はガムラオルスを主体とした、里の年長者達によって完成されている。


 とはいえ、今回はそれとは違う方法――物理的高速移動による、探知を突破するという個体が出現したのだ。

 もはや準備する余裕もないという状況の中、ティアが単騎で敵を引きつけ、時間稼ぎと同時にこの平原地帯にまで誘い込んだのだ。


 そこまでで評価すれば、彼女の働きは驚異的なものだった。

 だが、相手も馬鹿ではない。自身という最大の囮を使い、後続の魔物達を素通りさせたのだ。

 時間稼ぎに徹した結果、ティアの疲弊は著しく、急くように呼び寄せられた一族の者達も浮き足だったままである。

 対して、当初の予定通りに計画を進めていた魔物陣営は十全どころか万全の状態であった。


「巫女様……」


 味方に指示を(あお)がれるものの、彼女は集団戦闘を得意とはしていない。一騎当千の働きを十分にこなし、味方の動きを円滑するのが彼女にできる精一杯のこと。


「みんな頑張って! 私も頑張るから」


 事態は最悪の方向に進んでいた。

 足の速いティアは誰よりも早く戦闘を行い、結果的に被害を最小限に抑えることに成功したが、その代償とばかりに全くの無策――作戦を託される前に、この場に立ってしまったのだ。


「ですが、我々ではあの魔物に対応することは……」


 大きな藍色の複眼を持った魔物は、薄い羽根からは想像もできない推力によって、ガムラオルスの如き速度を獲得していた。

 これは風の一族であっても、肉体の動作が追いつかない速度である。彼と戦ったティアでさえ、この魔物を前にしては時間稼ぎが限度であったことからも、その脅威が分かることだろう。


「鈍色の個体、羽虫らならば我々でも対処できますが」

「……うん、じゃあみんなはそっちをお願い。私は、あいつを倒してみせるから」


 勝てる見込みなど全くなかった。ただ、この場の取り巻きさえ打ち倒せれば、味方全員で攻勢に移れる――と、浅い考えをもとに命令を下した。

 本質的に、これこそが彼女の弱さだった。

 理想を語り、それを体現するが故に、人間とは大きく乖離してしまう。

 それは必然的に発生することであり、過去何度も繰り返されてきたことである。


 今この場で、一族の者達が考えていることと、ティアの考えていることもまた違っていた。


「(巫女様ならば、あの魔物を打ち倒してくださる)」

「(我々はいつもの通りに、倒せる敵を討てばいい)」


 そう、彼らには脅威を打ち払おうとする気概はなかった。悪く言えば、困難な場面はティアに丸投げにしてしまえ、という考えがあったのだ。

 無邪気な子供と違い、彼らは悪気を持ってこれを行っている。ただし、それは人であれば誰しも抱く怠惰であり、平均へと近づこうとする勤勉さであった。

 彼らは常であろうと、折り合おうと努力していた。飛び抜け、突出しなければ打開できない状況に相対してもなお、その打破への努力ではなく、日常を維持すべく一生懸命になっていたのだ。


 これこそが、彼女の手抜かり、見損じであった。兵は一という数字であり、それに二や一と半を求めるようなことはしてはならない。

 一を満たすだけでさえ、褒める必要はなくとも、怒ってはならないのだ。人間(かれら)はそうした世界に生きている。


 藍色の(まなこ)を有した魔物――(ひょう)のような、黒い体毛に覆われた手足を持つ、(はえ)は凄まじい速度で迫る。ティアにではなく、他の魔物と戦う一族の戦士達に。


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