13s
「勝負あったな」
「……その傷で大口を叩けたものだな」
ウルスは初めから、エルズの覚醒を信じていた。だからこそ、時間稼ぎに徹していたのだ。
その為に、彼の体には多くの傷が刻まれ、満身創痍と感じさせるような状態に陥っている。
切断者は神器がない代償に、卓越した技術を持っている。資質でいえば、エルズ達の新世代組より遙かに上手だろう。
それであっても、炎という彼の切り札が封じられた状態での戦いでは、どうやっても勝つことはできなかった。
光属性によって肉体強化がなされ、それ自体が斬撃性能を持つ導力刃を捌ききったのだ。そう考えると、この重傷さえ軽傷と感じられる。
そして、賭けは彼の勝ちだった。
「勝負がついてんのは、お前が一番分かってるんじゃねえか?」
「……」
「三人に勝てると思うの?」
エルズとクオークは完全にフリーとなっていた。それまで彼らを妨害しようとしていた二人の死人は、完全に停止している。
「おれも耄碌したか」
「《闇の太陽》は前衛さえ居れば、万全の状態で戦えるわ。気付かないのを恥じる必要もないわ」
ウルスとの戦いで集中力の大半を持って行かれた為に、スタンレーは魔女の神器発動に気付けなかった。
僅かに感知することもなく、気付いた時には命令に関する機能が大きく阻害されていたのだ。
こうなると、《秘術》を再度発動させたところで意味がない。命令することのできない、ただの木偶人形を三体出現させるだけだ。
「上出来だ、クソガキ」
「オッサンも時間稼ぎご苦労さま」
クオークは自分も、と期待するが、切断者は「お前には積極的に戦ってほしかったんだがな」と苦言を呈した。
「そ、そんなぁ……あれでもおじいちゃんの術を妨害していたんですよ」
あの戦いの間、バリオンが一度も術を使わなかったのは、ひたすら妨害を行っていたからだ。
完全な術特化型であり、格闘戦をしない相手であれば、これだけで行動を完全に封印できる。それでいえば、彼は十分に役割を果たしていたといえる。
「ま、これで詰みってことだ。どうするボウズ、まだやるか?」
「……これを処理しろというのは、無理が過ぎる」
敗北を認めたような態度を取ったからか、ウルスは戦闘態勢を解除した。彼としては、スタンレーを殺すことではなく、本命のライオネル領主を捕らえることが優先事項なのだ。
「エルズ、いいな?」
「……ええ、でも――あなたの正体、どうして教会に従っているのか、それを聞くまでは逃せないわ」
魔女に睨まれ、司書は肩を竦めた。
「おれの所属している集団の意図は、察しかねる。少なくとも、この戦争を長引かせることが目的であることは明白だが」
「……それだけ?」
「貴様はどう考える。教会の根はどこにあると考えている」
「それは――闇の国に、あるんじゃないのかしら?」
掃除烏の突き止めた真相では、教会は敵国に通じ、善大王への妨害を行った。
であるならば、必然的に闇の国が手を引いているという結論に至る。
「教会の宿願が、闇の国の勝利であるかは疑わしいがな」
「……? どういうことよ」
「盗賊ギルドのお前が一枚噛んでるってことは、他も同じってことだろ?」
切断者は割り込み、核心に触れた。
これはスタンレーも予想外だったらしく、冷笑を浮かべた。
「分かった上で、冒険者ギルドに組していたか」
「えっ、冒険者ギルドがなんでここで」クオークは不意に声を発した。
「適当に言ってみるもんだな。やっぱり、連中も連んでいたわけだな」
彼以上に、冒険者ギルドの異常を察知していた者はいないだろう。
ウルスがこうして表舞台に出てきたのは、スワンプを巻き込まない為である。ただ、それだけはなく冒険者ギルドの妙な動きを警戒していた、というのも大きな要素であった。
サイガーのもたらした変革の予兆は、もはや実現への段階に移行している。
遠からず発生すると考えていたウルスからしても、これは明らかに性急であり、ご都合主義のように速やかだった。
 




