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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
836/1603

13s

「勝負あったな」

「……その傷で大口を叩けたものだな」


 ウルスは初めから、エルズの覚醒を信じていた。だからこそ、時間稼ぎに徹していたのだ。

 その為に、彼の体には多くの傷が刻まれ、満身創痍と感じさせるような状態に陥っている。


 切断者は神器がない代償に、卓越した技術を持っている。資質でいえば、エルズ達の新世代組より遙かに上手(うわて)だろう。

 それであっても、炎という彼の切り札が封じられた状態での戦いでは、どうやっても勝つことはできなかった。


 光属性によって肉体強化がなされ、それ自体が斬撃性能を持つ導力刃を(さば)ききったのだ。そう考えると、この重傷さえ軽傷と感じられる。

 そして、賭けは彼の勝ちだった。


「勝負がついてんのは、お前が一番分かってるんじゃねえか?」

「……」

「三人に勝てると思うの?」


 エルズとクオークは完全にフリーとなっていた。それまで彼らを妨害しようとしていた二人の死人(しびと)は、完全に停止している。


「おれも耄碌(もうろく)したか」

「《闇の太陽》は前衛さえ居れば、万全の状態で戦えるわ。気付かないのを恥じる必要もないわ」


 ウルスとの戦いで集中力の大半を持って行かれた為に、スタンレーは魔女の神器発動に気付けなかった。

 僅かに感知することもなく、気付いた時には命令に関する機能が大きく阻害されていたのだ。


 こうなると、《秘術》を再度発動させたところで意味がない。命令することのできない、ただの木偶人形を三体出現させるだけだ。


「上出来だ、クソガキ」

「オッサンも時間稼ぎご苦労さま」


 クオークは自分も、と期待するが、切断者は「お前には積極的に戦ってほしかったんだがな」と苦言を(てい)した。


「そ、そんなぁ……あれでもおじいちゃんの術を妨害していたんですよ」


 あの戦いの間、バリオンが一度も術を使わなかったのは、ひたすら妨害を行っていたからだ。

 完全な術特化型であり、格闘戦をしない相手であれば、これだけで行動を完全に封印できる。それでいえば、彼は十分に役割を果たしていたといえる。


「ま、これで詰みってことだ。どうするボウズ、まだやるか?」

「……これを処理しろというのは、無理が過ぎる」


 敗北を認めたような態度を取ったからか、ウルスは戦闘態勢を解除した。彼としては、スタンレーを殺すことではなく、本命のライオネル領主を捕らえることが優先事項なのだ。


「エルズ、いいな?」

「……ええ、でも――あなたの正体、どうして教会に従っているのか、それを聞くまでは逃せないわ」


 魔女に(にら)まれ、司書は肩を(すく)めた。


「おれの所属している集団の意図は、察しかねる。少なくとも、この戦争を長引かせることが目的であることは明白だが」

「……それだけ?」

「貴様はどう考える。教会の根はどこにあると考えている」

「それは――闇の国に、あるんじゃないのかしら?」


 掃除烏の突き止めた真相では、教会は敵国に通じ、善大王への妨害を行った。

 であるならば、必然的に闇の国が手を引いているという結論に至る。


「教会の宿願(しゅくがん)が、闇の国の勝利であるかは疑わしいがな」

「……? どういうことよ」

「盗賊ギルドのお前が一枚噛んでるってことは、他も同じってことだろ?」


 切断者は割り込み、核心に触れた。

 これはスタンレーも予想外だったらしく、冷笑を浮かべた。


「分かった上で、冒険者ギルド(・・・・・・)(くみ)していたか」

「えっ、冒険者ギルドがなんでここで」クオークは不意に声を発した。

「適当に言ってみるもんだな。やっぱり、連中も(つる)んでいたわけだな」


 彼以上に、冒険者ギルドの異常を察知していた者はいないだろう。

 ウルスがこうして表舞台に出てきたのは、スワンプを巻き込まない為である。ただ、それだけはなく冒険者ギルドの妙な動きを警戒していた、というのも大きな要素であった。

 サイガーのもたらした変革の予兆は、もはや実現への段階に移行している。

 遠からず発生すると考えていたウルスからしても、これは明らかに性急(せいきゅう)であり、ご都合主義のように(すみ)やかだった。


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