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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
834/1603

11s

 鼠の名に反する戦闘方法だが、相手はノーガードでの一方的な攻撃を是としている。

 これは近接型からすれば圧倒的不利での戦いを要求され、術者でさえ半端な術では突破することさえ叶わないときている。

 だが、彼のもとで戦っていたオキビ(・・・)がそれを知らないはずがなかった。


 瞬間、ベイジュの体は突如として発火し、鎧の内側から勢いよく火炎を吹き出させた。

 いくら最高峰の防御力を持つ者であれ、このように位置を無視した攻撃を行われれば、対応することは不可能。

 そしてそれは、《竜牙刃の鼠》にしても例外ではない。その上、この攻略法はこの土壇場で思いついたわけではなく――過去に、同様の手段で(くだ)したのだ。


「(勝負付けは終わっていた。だが、《選ばれし三柱(トリニティア)》でもなく、ここまで戦える奴は珍しかった――あの雷親父への反抗心もあったがな)」


 多くの経験を持つウルスにしても、当時のベイジュに対して思うところは多かった。

 天の国は術者のエリート達が集っており、凄いのははじめから分かっていた。

 光の国にしても、ノーブルの技術こそ凄まじいものではあったが、彼に勝利できる資質を持った者はいなかったのだ。


 しかし、この盗賊ギルドのボスだけは違っていた。明確な資質を持たず、術の冴えがあるというわけでもなく――ただ単純に強かったのだ。

 その結果はウルスの勝利で終わったが、それでも《火の太陽》が自身の能力を使うに至った時点で、勝負ではなく(ころしあ)いになっていた。

 発火した死人は倒れたが、切断者はなんの未練もなくその横を通り抜け、術者であるスタンレーに接近していく。


「(クソガキ、これが戦うということだ。私情に囚われてる限りは、勝ちはねぇよ)」


 彼は自身の行動をもってして、エルズにそれを教えようとしていた。当人がそれを理解していたかは定かではないが、それでも彼は口にすることもなく、行動で示したのだ。

 ――良くも悪くも、ウルスは古いタイプの人間なのだ。手取り足取りで教えるようなことはしない。


「容赦のない男だ」

「それを言うなら、お前は嫌味な男だな」


 手に炎を()めたのを見てか、スタンレーは口許を緩めた。

 しかし、《紅蓮の切断者》が正面から勝負するはずがなかった。相手が手を打っていると分かれば、それを外した状態で打ち倒す。


 手のひらは標的ではなく、後方に向けられた。これでは圧縮した炎も、攻撃に用いることはできない。

 この時点で、司書は気付いていた。あの前兆が攻撃目的ではなく、別のところにあると。


 刹那、ウルスの動きは急加速し、まさに一瞬という時間の内にスタンレーの射程へと突入した。

 覚悟こそ決めていたが、この速度までは想定外だったらしく、司書は彼最強の武器である《秘術》を振るわなかった。


 切断者の拳――強化の成されていない、ただの徒手空拳(としゅくうけん)に対し、導力を纏った拳で迎え撃つ。


「なるほどな、やっぱり物理(こっち)は通るってことだな」


 小さな爆発が起き、二人の使い手は吹っ飛ばされた。

 無論、着地や衝撃は逃しきっているが、距離は開かれている。そして、素手だったはずのウルスは無傷でこの場を切り抜けた。


「防御行動を取ったら、虎の子は使えないみたいだな」

「……予定調和だ」


 強がりのようにも聞こえるが、スタンレーは焦る様子もなく、詠唱を開始した。


「もとの場所に引き返しやがれ《反射追尾(オートカウンター)》」


 彼は初めて、この術を詠唱してみせた。本来、こうした補助系の術は事前に用意しておき、奇襲性を高めるのが常だ。

 しかし、この場ではそうも言っていられない。手札を隠す余裕があるのは、格下が相手の時だけである。


反射追尾(オートカウンター)か。思った通り、反撃系か」

「……」

「見る限りは術――もしくは導力に反応して仕返しをする効果か。だが、お前が防御行動を取った時点で解除されるみてぇだな。なら、こっちのパーティには有効じゃねえぞ」


 反撃系、という用語を使っているが、そのような術はそこまで多くはない。

 光ノ百十一番・星粒壁(スターダストウォール)など該当するが、そうした当該術にしても発生時間は限られ、視覚化されているのが常である。

 不可視、それもほぼ永続の効果ともなると、奇襲性能の高さは究極である。


「エルズ、クオーク、そっちはお前らに任せる。俺はこいつをぶっ倒す」

「は、はい!」クオークは《魔導式》を組みながら答える。


 エルズからの返事がないことにすぐ気付くが、それでも彼は何も言わなかった。


「あの腰抜けに《闇の太陽》を任せるか」

「ふん、あいつはやるときはやる奴だ。それに、あのクソガキもな」


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