表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
831/1603

8s

「オキビ、足手まといを抱えながら戦えるか?」

「ッ――」


 焦土師は迷うこともなく、炎を放った。

 燃えさかる赤い炎はエルズの身を焼き、確かな熱感を彼女に与えた。


 皮膚を伝わる痛みに気付き、魔女は地面に転がった。咄嗟に火を消そうとする辺り、彼女は冷静さを取り戻したらしい。


「ほう、さすがは《焦土師(ファイアースターター)》。おれを直接狙わず、仮面の娘を助けにいったか」

「……お前のことは少なからず知っている。ガキの頃でさえ、お前から強い力を感じていたからな――《秘匿の司書》なんて大仰(おおぎょう)な異名が付いた時には、俺の目に狂いがないと思ったくらいだ」

「知っていたか」

「今ここで見てから、確信に至ったって話だ。どうせ、俺の攻撃を防ぐ《秘術》も発動しているんだろ?」


 司書は鼻で笑うだけにとどめ、実情については語らなかった。

 それでも確信を維持したまま、消火を終えたエルズに視線を向けた。


「エルズ、こいつは多種多様な《秘術》を使う相手だ。直線的な攻撃はなんの意味もねぇぞ」

「……ええ」


 憤りは消えていないが、それでも状況の判断を違えるほどではなくなっていた。


「おいクオーク、お前も支援だ」

「あっ、はい!」


 それまで呆然としていたクオークも、この命令で我を取り戻し、急ぐように《魔導式》を展開し始める。


「楽な仕事と聞いていたが、これはこれで面白い戦いかもしれん」

「楽しむ余裕なんて与えないわ――ウルス、こいつは殺していいのよね」

「……なるべくは穏便(おんびん)にだが――その気で挑め」


 この場の全員が全員、少なからず関わりを持ってはいた――が、明確に手札が割れているというわけではない。

 ウルスは頭角を現す以前の彼を知っているのみであり、若者組の二人は直接の面識さえない。


 それに対し、スタンレーは圧倒的な優位にある。盗賊時代のウルスを知っている以上、彼の戦術も承知の上だろう。

 クオークもエルズも、その親や祖父を知っている以上、知識の大部分を流用することができる。

 無論、これは切断者も魔女も理解していることであり、なるべく攻撃の手を変えた戦い方をすべき――という判断をするに至っていた。


 ――だが、二人は読み違えていた。この場で状況を覆しうる存在は、臆病な天属性使いだけなのだ。


 先んじたのは、ウルスだった。近接型ではないのだが、この場では彼が先制を取る他になかった。

 もちろん、スタンレーが近接での攻防をよしとするはずもなく、詠唱文を口にした。


「俺様の一撃を受けてみろ《圧殺の一撃(エアハンマー)》」


 《魔導式》が一つもない状態にもかかわらず、《秘術》が発動(・・)された。


「やらせるかッ!」


 打ち合いであれば問題はないと判断したのか、切断者は赤色の炎を腕に(まと)わせ、斬撃のような動作に合わせて放った。

 しかし、その炎は何か(・・)に衝突し、僅かな抵抗力さえ発揮できずに四散した。


「ッ――エルズ、避けろ」

「……分かったわ」


 経験の差か、エルズは反応を僅かに遅れさせ、声掛けでようやく行動に移った。

 前転でその場から素早く逃れるが、その瞬間に彼女は感じ取った。空間の歪み――不可視の空気弾が通り抜けた、という感触を。


「風属性の《秘術》……っ」

「いや、ありゃそんな生ぬるいもんじゃねえよ。俺の()に干渉されるまでもなく突破したってことは……間違いなく、空間(・・)に介入する術だ」


 魔女でさえ見切れなかった術の性質を、ただの一回で看破してみせた。

 これにはスタンレーも驚いたらしく「驚いたな。このおれでさえ、術の仕組みを知る為に難儀したものだが」と素直に評価してみせた。

 《秘術》を盗みながらも、その効果が分からないというのは奇妙にも聞こえるが、それも仕方のないことである。

 彼は術に必要な《魔導式》、導力配分を寸分の狂いもなく模倣し、実行しているのだ。その《秘術》が作り出された経緯、願いについては知るはずもない。


「そんなやべぇ術を開発した奴がいるとはな」

「最強の破壊力を持つ《秘術》、という謳い文句によって狩ったが――思わぬ収穫だった」

「だがまぁ、手の内が分かりゃ対策すんのは難しくねぇ――エルズ、クオーク、この戦いの最中は導力を放出し続けろ。言っておくが、出し惜しみはナシだ」


 空間に干渉する、という言葉を理解できない二人だったが、この警告には素直に従った。


 そもそも、これを知っている彼が異常なのだ。

 だが、《天の太陽》が師匠であったならば――当時からウルスを《選ばれし三柱(トリニティア)》と判断していたのであれば、存在や対策について教えていてもおかしくはない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ