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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
830/1603

7s

 切断者の予想は悪い形で的中した。

 会談中の部屋を発見した直後、気配を発することもなく、一人の男が現れたのだ。


「なるほど……やっぱり刺客を用意してやがったか」

「――奇妙な取り合わせだ。なんの集まりだ?」

「ぼ、ぼく達は冒険者……掃除烏だ! あの、黙って忍び込んだのは理由があって――」


 クオークは迷うことなく、弁明から入った。

 相手が敵である以上、無意味な行為のように見えるが、彼としては貴族の従者という認識で当たっているのだろう。


「馬鹿、こいつは話し合いで解決するような奴じゃ――」

「……なに、どうしたのよ」


 ウルスの表情が明確に変化したことに気付き、エルズは戦闘態勢に入った。その顔が知り合いと――良い知り合いと遭遇したものではない、と即座に察知したのだろう。


「《天導師》バリオンの孫と、《焦土師(ファイアースターター)》のオキビ――それと、《闇の太陽(・・・・)》の娘か」


 藍色の毛の混じった金髪の男は――スタンレーは、そう言った。


「やっぱり、あの時の小僧か。まさか、盗賊ギルドが教会と絡んでいるとはな」

「貴様こそ、ベイジュを見捨てて逃げたと思っていたが……今度は冒険者か」

「減らず口だな。お前さんの活躍はよおーく聞いてるぜ――反対勢力を片っ端にぶっ殺し、弱小だったストラウブをボスに仕立て上げたってな」


 スタンレーの眉が僅かに動いた。


「不満ならば、あの時に抵抗すれば良かっただけのこと。負け犬の遠吠えか」

「……いや、不満でもねぇよ。ベイジュ(ボス)じゃお前さんに勝てないってのは見えていた。案の定、最後には砂漠で野垂れ死にだ」


 彼が盗賊ギルドを抜けた理由は、自身の派閥が敗北するという未来を予見(よけん)した為だった。

 無論、《火の太陽》である彼が介入すれば結果は変わっていたかもしれないが、《選ばれし三柱(トリニティア)》の制約を守っていた彼が手を貸すはずがなかった。


「なら、(かたき)討ちでもするか? おれも仕事だ、貴様が挑んでくるのであれば、払い除けるまでだ」


 二人は早速戦闘を開始しようとしたが、掃除烏の残り二人は唖然としたまま固まっていた。


「(こいつ、どうしてムーア(あの人)のことを知っているの? ……もしかして、こいつが――)」


 刹那、彼女の記憶に何かが混じり込んだ。

 夢のような、現実味のない幼い頃の記憶。父を失い、その遺書を見つける時の――その少し前の記憶。


「(誰かが仮面を持ってきた……でも、それは夢だって思っていた。諜報部隊の誰かが、持ってきたって思ってた)」


 彼女にとってのそれは、曖昧そのものだった。

 寝ぼけて見た光景を現実と信じられないように、夢と夢に挟まれたことにより、それは完全に夢の出来事となっていた。

 ただし、その曖昧な記憶の中にあっても、男の髪の異様さだけは鮮明に残っていた。


「……ムーアを殺したのは、あなたね」

「エルズ?」ウルスは横目に見る。

「あなたが――エルズから全てを奪ったのね」

「全て? 貴様には仮面を渡したはずだ。《闇の太陽》にとって、それ以上のものはないだろう」


 明らかな(あお)りに対し、魔女は――《闇の太陽》は我を忘れた。


「やっぱり……やっぱりあんたが、あんたのせいで――あんたのせいでエルズはッ!」


 後衛型のエルズが突っ込んだ。仮面もつけず、《魔導式》さえ用意せず。

 いくら善大王とフィアが彼女に救いを与えたといっても、エルズにとって父親(・・)を殺した相手というのは、いつまでも憎き相手なのだ。

 仮面の適応者である彼女にとって、幼少の頃は明確な意識をもって過ごせる時間だ。

 だからこそ、父親は確かに存在する人物。昔にいた親だった人ではないのだ。


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