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切断者の予想は悪い形で的中した。
会談中の部屋を発見した直後、気配を発することもなく、一人の男が現れたのだ。
「なるほど……やっぱり刺客を用意してやがったか」
「――奇妙な取り合わせだ。なんの集まりだ?」
「ぼ、ぼく達は冒険者……掃除烏だ! あの、黙って忍び込んだのは理由があって――」
クオークは迷うことなく、弁明から入った。
相手が敵である以上、無意味な行為のように見えるが、彼としては貴族の従者という認識で当たっているのだろう。
「馬鹿、こいつは話し合いで解決するような奴じゃ――」
「……なに、どうしたのよ」
ウルスの表情が明確に変化したことに気付き、エルズは戦闘態勢に入った。その顔が知り合いと――良い知り合いと遭遇したものではない、と即座に察知したのだろう。
「《天導師》バリオンの孫と、《焦土師》のオキビ――それと、《闇の太陽》の娘か」
藍色の毛の混じった金髪の男は――スタンレーは、そう言った。
「やっぱり、あの時の小僧か。まさか、盗賊ギルドが教会と絡んでいるとはな」
「貴様こそ、ベイジュを見捨てて逃げたと思っていたが……今度は冒険者か」
「減らず口だな。お前さんの活躍はよおーく聞いてるぜ――反対勢力を片っ端にぶっ殺し、弱小だったストラウブをボスに仕立て上げたってな」
スタンレーの眉が僅かに動いた。
「不満ならば、あの時に抵抗すれば良かっただけのこと。負け犬の遠吠えか」
「……いや、不満でもねぇよ。ベイジュじゃお前さんに勝てないってのは見えていた。案の定、最後には砂漠で野垂れ死にだ」
彼が盗賊ギルドを抜けた理由は、自身の派閥が敗北するという未来を予見した為だった。
無論、《火の太陽》である彼が介入すれば結果は変わっていたかもしれないが、《選ばれし三柱》の制約を守っていた彼が手を貸すはずがなかった。
「なら、敵討ちでもするか? おれも仕事だ、貴様が挑んでくるのであれば、払い除けるまでだ」
二人は早速戦闘を開始しようとしたが、掃除烏の残り二人は唖然としたまま固まっていた。
「(こいつ、どうしてムーアのことを知っているの? ……もしかして、こいつが――)」
刹那、彼女の記憶に何かが混じり込んだ。
夢のような、現実味のない幼い頃の記憶。父を失い、その遺書を見つける時の――その少し前の記憶。
「(誰かが仮面を持ってきた……でも、それは夢だって思っていた。諜報部隊の誰かが、持ってきたって思ってた)」
彼女にとってのそれは、曖昧そのものだった。
寝ぼけて見た光景を現実と信じられないように、夢と夢に挟まれたことにより、それは完全に夢の出来事となっていた。
ただし、その曖昧な記憶の中にあっても、男の髪の異様さだけは鮮明に残っていた。
「……ムーアを殺したのは、あなたね」
「エルズ?」ウルスは横目に見る。
「あなたが――エルズから全てを奪ったのね」
「全て? 貴様には仮面を渡したはずだ。《闇の太陽》にとって、それ以上のものはないだろう」
明らかな煽りに対し、魔女は――《闇の太陽》は我を忘れた。
「やっぱり……やっぱりあんたが、あんたのせいで――あんたのせいでエルズはッ!」
後衛型のエルズが突っ込んだ。仮面もつけず、《魔導式》さえ用意せず。
いくら善大王とフィアが彼女に救いを与えたといっても、エルズにとって父親を殺した相手というのは、いつまでも憎き相手なのだ。
仮面の適応者である彼女にとって、幼少の頃は明確な意識をもって過ごせる時間だ。
だからこそ、父親は確かに存在する人物。昔にいた親だった人ではないのだ。




