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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
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光と風の再戦

 脇を通り抜けていく心地よい風を感じながら、善大王は眼下に広がる世界を眺めた。

 山を登り初めてから結構経ち、高さも上々。見渡す先には点のように小さな家が点在しているが、さすがに水の国は見えない。


「景色が綺麗ね」

「ああ、もうそろそろかな」


 さすがに私用で来ているということもあり、善大王は旅人が着るようなしっかりとした服装にしていた。

 善大王としての名残か、白を基調としたコートとジーンズだ。

 腰に刺していた地図を取りだし、現在の位置と照らし合わせる。

 かつて来た時はティアと遭遇し、かなりの遠回りを強いられたからこそ、かなり道順が違っている。

 ただ、帰り道に関してはこの地図と同じらしく、見知った場所ではあった。

知っていたとしても、逆から来ると印象が変わる為に、善大王もいまいち実感を掴めていないようだが。


「それにしても、ティア達は接触してこないわね」

「だな……警戒しているのか、それとも」


 善大王には、二つの可能性が見えていた。

 一つは、自分の存在によって警戒が解かれているというもの。ただ、それに関しては少し臭いところがあった。

 もう一つのは有力。つまるところ、フィアが来ているからだ。ティアとフィアが巫女繋がりということで、既に周知が行われているのかもしれない、という理屈。

 何かあるかもしれないと懸念した二人だが、結局里まで何も起こらずに到着してしまった。

 歓迎されるかと思っていた善大王だが、里の入り口に入った時点で部族の者達から睨みつけられる。攻撃こそされないが、明らかに拒否されている。


「なんか、怖い人達だね……」

「気が緩んでいるとそうでもないんだがな」


 不安そうなフィアの手を握り、善大王は堂々と族長のテントへと向った。

 扉がないのでノックも出来ず、止むなくそのまま開いた。


「また来たのか、光の皇」

「ああ、ティアとの約束を果たしにな」


 そう言いながらティアの姿を探す善大王だが、姿は見当たらない。

 改めて各器官を活性化させ、少女の成分などを辿っていった。すぐに、里の中にいないことが分かる。


「ティアはどこに?」

「今は分家の里に居る。しばらく戻らないはずだ」

「……ん、待てよ。じゃあなんで俺達に接触しなかったんだ?」


 問いを投げかけられた族長は眉を震わせ、善大王を睨む。


「ティアから頼まれていただけだ。そうでなければ、排除していた」


 いないはずのティアからどうやって聞いたのか、通信術式か、などと勘ぐっていた善大王の袖をフィアが引っ張った。


「ここに来る前に、ティアに話を通しておいたの」

「なっ……接触を図ってこないのを疑問に思ったのはフィアだろ!?」

「うん、迎えとか来ると思っていたから」

「(接触って、そっちかよ!)」


 呆れかえった善大王はどうするかを考えた。

 しばらく帰ってこない状況、この気まずさでしばらく滞在するという選択肢はない。ともなれば、答えは一つに絞られてくる。


「分家の里を教えてもらえないか?」

「里の秘密を話す必要はない」

「……里の場所は分かったわ。ライト、向いましょ」


 善大王はニヤリと笑った。


「(そうだ。フィアには相手の心を読む能力がある。どんなに隠しても無駄だ)」

「何故分かった」


 族長が質問してきた時点で善大王がすぐに割り込む。


「この子は妄言を吐く子なんだ。気にしないでくれ」

「妄言って何よ! 私は本当のことを言っているのよ!」


 怒ったフィアはご丁寧に道順を言ってしまった。

 距離は遠く、曖昧なものだったが、族長からすれば気付いていると判断するに至る情報だった。


「前言撤回だ。お前達はここで消えてもらう」


 途端、部族の者達が一斉にテントの中に飛び込んできた。手には槍やナイフが握られている。


「ライト、なんか怒りだしているけど……なんで?」

「あのな、秘密って言っている相手の前で暴露したら、そりゃ怒るだろ。フィアだって隠し事している時にバラされたら、恥ずかしいだろ?」

 少しの間を置き、フィアは「あーなるほど」と言った。


 どうにも分家の方は知ってはならない類の情報だったらしく、全員が殺気だっていた。善大王もそれを理解したらしく、どうこの場を切り抜けるかを考え始めた。


『お父さん、みんな! ちょっとまって』


 突如として聞こえてきたティアの声に、全員が手を止めた。


「ティアか?」

『うん、フィアちゃん達なら大丈夫だから』


 フィアの手元で通信術式が開かれていた。


「だが、よそ者に分家の里を悟られることは……」

『巫女としての用だから』

「(巫女としての用件とは聞いていないし、こちらもその気はないんだがな……)」


 善大王は良く分からないなりに、口出しをせずに黙っていた。

 しかし、族長は巫女に造詣が深いらしく、眉を顰めながらも全員に武器を下げるように命令を出した。


「分かった。こちらから案内役をつけよう……ティア、それでいいんだな」

『お父さん、ありがと』


 そこでフィアは通信を切った。


「……ということだ。この者達を案内しろ」


 その場に来ていた女性はウィンダートから直接の指示を受け、善大王達を連れて行くことになった。

 移動用の食料を追加し、二人――案内を含めれば三人だが――は歩き出した。


「フィア、ああいう場での行動は慎まないと駄目だ」

「分かっているって……だからどうにかしたじゃない」

「あのなぁ……人間関係でつじつま合わせはあまりよくないからな? 最初から失敗しないようにしろ、失敗したら謝れ」


 しつけのような善大王の声を聞いて耳が痛くなったのか、フィアは目線を逸らした。


「ごめんなさい」

「ま、あの状況なら分からないでもないがな……」


 そんな話を聞きながらも、案内役は一切口を利かない。

 ただ、それに関しては二人も同じ。善大王は少女以外には興味がなく、フィアはそもそも対人恐怖症持ちなので会話にすらならない。

 そうした関係を数日続け、三人は分家の里に辿りつく。


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