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――水の国、オーダ城周辺にて……。
「んで、どうすんだ」
「エルズの力で正面突破する」
「……それ、危なくないですか?」
掃除烏の三人は城を外から眺め、話し合っていた。
会話の内容から分かるとおり、目的は城の内部へと侵入することだった。無論、貴族の住居への不法侵入は重罪だ。
「ったく、これだから若ぇ同類は」
「なによ、ならもっと手っ取り早く――全員殺していく?」
慣れ始めたとはいえ、クオークは身を震わせた。
この発言をしているのが少女であるからして、冗談や悪い言葉を覚えた、という程度に捉えるのが普通だ。
しかし、この少女が他でもない《幻惑の魔女》であると知っている以上、そのような無知な楽観視は不可能だった。
やると言ったら殺る。それがこのエルズという冒険者だった。
「いちいち真に受けんな。それに――ハナから仮面を使う気なんだろ?」
「最初からそう言ってるじゃない」
これを聞き、ようやく若い冒険者――パーティ内では二番目だが――は安堵し、冷静な態度を取り戻した。
「でもな、もし気付かれたらタダじゃ済まねぇぞ。なにせ――いや、お前が一番理解しているな……前にあの城でゴタゴタがあったんだろ?」
「ええ」
「今度は渡り鳥も善大王もいねぇぞ」
「……あんたらがいるのが痛手ね」
助けてくれる人物として挙げるのが普通だが、やはり彼女は歪んでいた。
魔女としての本音は、掃除烏の他二人がいなければ、泥をかぶることなど気にせずに行動できる――と言ったところだろう。
彼女はティアと別れてから、基本的に破滅的である。
彼女からすれば自分を裁こうとする相手がいるとして、それを殺し続け、止まるまで待てばいいという認識なのだろう。
「まさか――エルズさん、それはよくな――」
「だから……真に受けるんじゃないわよ。エルズはそんなことでいちいちプレッシャーを感じないってことよ」
「あっ……そ、そうだったんですか」
オドオドな態度は前々からだが、エルズが来てからはより加速したように見える。
とはいえ、魔女という悪名持ちを前にしているのだから、この態度は冒険者としては自然なものだ。むしろ、平気なウルスの方が異常である。
「んじゃま、突っ込むとするか」
「……城の連中は殺さないけど、アイツを見つけたら――真っ先に殺してもいいのかしら?」
「それについてもマテだ。アイツからは聞き出さなきゃならねぇことがある」
魔女は目線を逸らし、「エルズは犬じゃないから、その命令を聞くかどうかは分からないわね」と皮肉ってみせた。
「それにしても、ライオネル領主を引っ捕らえるなんて……普通に大丈夫なんですかね、これ」
《選ばれし三柱》の二人は目を細め、天属性使いを見た。
「えっ……え、なんですか?」
「おいおい、的の名前を出すんじゃねぇよ」
「素人丸出しね。神経質な貴族なら、単語で反応する術を使うものよ」
素人、と手厳しい意見だが、これは本当にその通りであった。
国に仕え、要人警護を行うような立場の人間であれば、このような探知術の存在は知っていて当然である。
エルズ、ウルス共に元軍人であるからして、同じく軍所属のクオークだけが知らないとあってはこう言われるのも当然のこと。
「はい……以後気をつけます」




