激戦の後に……
――フォルティス艦隊、旗艦司令部にて……。
カルテミナ大陸攻略戦は、三国同盟の勝利という形で決着した。
ライカが敵兵器を無力化した後、カイト率いる部隊が大陸に突入。
彼が偶然遭遇した司令官を撃破することで、予想以上に早く決着が付いてしまったのだ。
ただ、これは完全勝利とは言いづらく、大陸内どこを探してもライカの姿は見つからなかった。
彼女が何処へ行ったのか。それは結局明らかにならなかったが、巫女の二人は揃って断言していた。
「ライカちゃんは攫われたと考えて、間違いないでしょう」
「やったのは、十中八九ライムでしょうね。巫女達が集結するくらいの戦場に、あの子が来ないはずがないわ」
司令部内の全員が頷くが、これは諦めがついたというより、次なる目標が定められたといったところだろう。
「しかし、これでとりあえずは決着、ということだな」とヴォーダン。
「……攻略戦については、その通りですが」
「ではいいではないか。こちらは義を果たした、あとのことは水と雷に任せるとしよう」
相も変わらぬ不干渉具合に、ミネアは憤った。
「ライカが攫われたなら、それを助けに行くのが道理よ」
「ではなにか、雷の巫女はガルドボルグ大陸の何処かにいると言うか? 否、彼奴らのことだ、本国に連れ帰っていることだろう――であるならば、救出は敵地襲撃と同時に行わなければなるまい。我らが火の国のその余裕はない。善大王殿の要求についても、この限定的な協力にのみ賛同しただけだ」
フレイア王の言い分はおおよそ間違っていなかった。
火の国が戦いに参加したのは、海上保安の為でしかない。カルテミナ大陸が落とされたとなれば、敵も頻繁に海上戦を仕掛けることはできなくなる。
なにせ、ここからは人類側が攻め込みやすくなるのだから。
であれば、フレイアはこの戦いで利は得た。これ以上の戦いをしたところで、損失の方が大きく付く。
まるで雷の国のような合理主義だが、彼は根本的に保守的なのだ。感情で兵を出すほど、若くはない。
――この場に善大王がいれば……あの戦いに善大王が加わっていれば、この展開は変わっていたことだろう。
「シアンちゃんを一人で戦わせるつもり?」
「……ミネア、ここは個人の主張を持ち込む場ではない」
呼称がかつてのものに戻っていることから分かるとおり、ミネアはあの戦いの中、シアンと和解していた。
二人は互いの弱さを克服――こそできなかったが、それに抗った。
互いが寄り添おうとした努力をしたからこそ――それを知ったからこそ、二人は再び同じ道を歩めるようになった。
しかし、そうして協力し合える関係に戻ったにもかかわらず、王が――国がそれを是としなかった。
「――では、ライカを助ける気もなく、あのような作戦を命じたということですか?」
「ラグーン王、残念ながら火の国は件の作戦には関与しておらん。飽くまでも一兵として、この戦いに参加しただけなのだ。文句があるならば、《海洋の歌姫》に言ってもらおうか」
勝利したにもかかわらず、事態は最悪の方向に向かって進み始めていた。
六カ国もあるミスティルフォードが、戦争のない平和な世界だったのは国防装置である巫女が存在していたからだ。
これを各国が握っているからこそ、共通通貨や共通言語が成立しえた。多少の問題についても、巫女側が調停することで事なきを得てきたのだ。
しかし、雷の国はそれを失った。これはラグーン側への干渉を制止させうる者がいなくなったことと同時に、他国に対して文句を述べることさえ許されなくなったことを示している。
フレイア王のこの対応さえも、それが大きく影響しているのだ。巫女のいない国など、何を言われようとも恐れるまでもないのだから。




