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天上から降り注いできた光。それは昇天の道の如く壮大さだが、決して優しいものではなかった。
曇天を引き裂くほどの勢いで放たれたそれは、紛れもなく電撃だった。紫色をした雷の柱――その範囲は、小さな町一つを一撃で焼き払うほどだった。
除外文などは加えられていない。にもかかわらず、ライカはそんな死の空間の中で、平然と佇んでいた。
そう、彼女にとってそれは無意味なのだ。その電撃がマナや導力に依存している限り、如何なる強さの雷であれ、彼女の支配下に含まれてしまう。
莫大な量の導力、そして散らされていくマナを吸い込んでいく魔剣だったが、その砲身は次第に赤を帯びていく。
「ミスティルフォードなめんな異世界!」
過剰加熱によって、ついに荷電が中断され、強制的に機能が停止した。
『WARNING! System,OverHeating.Enter,TheCoolDown,Forced』
途切れ途切れの音声の後、魔剣から蒸気が吹き出すが、ライカの攻撃は未だ続行していく。
強制冷却で修復に入ろうとした磁力の魔剣だが、その速度を上回る加熱に耐えきれず――爆発した。
雷の柱が消えた後、立っていたのはライカだけだった。
地面は焦土どころではなく、土塊の全てが吹き飛び、灰色をした硬質な足場が残るだけとなった。
「……一個しか潰せなかったけど――まーこれで、十分……っしょ」
その言葉を紡ぎ終えると同時に、彼女はその場に倒れ込んだ。
使い切れる量のソウルを全て使い切ったのだ。力の総量のみならず、彼女の体を走る導力の経路でさえ、非常に危うい状態となっている。
ライカはとりあえずの役目を果たした。兵器の完全沈黙こそ成らなかったが、その課程で相当数の敵兵を倒している。
幸か不幸か、彼女が最後に発動した最上級術の余波によって、周囲には雷属性のマナが撒かれた。
擬似的に雷の国と同等の土地となったが故に、彼女の傷も修復されていくことだろう。
しかし、この大陸は敵地のど真ん中。そのような場所で回復を待つ暇など、あるはずもなかった。
そう、電撃姫は数多くの敵を屠ったが、全滅させたわけではない。そして、この大陸が闇の国にとっての決戦兵器である、ということを軽視していた。
「まさか、自力で突破するとは思いませんでしたわ。せっかく、攻略方法が分からないように、異世界人の通信を妨害しましたのに」
そこに現れたのは、ライカと同じく《星》である少女。闇の巫女、ライムだった。
彼女が口にしたことは小さなことのようで、実は途轍もなく大きな問題だった。
通信術式は謎が多く、クオークがその中で新たな技術体系を生み出しただけで、《天の星》が興味を抱くほどだった。
しかし、ライムのやってのけたことはその比ではない。他者に向かって送られたはずの通信を横取りし、相手に勘違いさせたまま続行させる。
幻術を通信術式へと割り込ませることが不可能に近いことは、これを使った偽装が確認されていないことからもよく分かるだろう。
「それにしても、まさか雷属性で勝つとは――思いもよらない結果ですわね」
倒れているライカを見下ろしながら、彼女はとどめを刺そうとはしなかった。
「こんなことなら、通信を通した方が得策でしたの。ライカちゃんの天使は、結局あれが見納めですわね」
闇の巫女は遠くに見える船で、火柱や間欠泉が昇る様を確認した後、電撃姫を抱きかかえたまま――。




