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勝負の終了を感じ取り、ライカはふらつきながらに磁力の魔剣へと近づいていく。
使用者を封じたとしても、本体を破壊するまでは任務の達成とならない。
迫るにつれ、その異様な外観がより一層の歪さを見せた。
「……にしても、あん時の一撃は何が起きたし。アタシの読みじゃあ、あれはまだしばらく掛かるはずだったし」
これについては、否定するところがなかった。
彼女の読みは正確無比であり、しばらく、という部分に至るまで違えてはいなかった。
ただし、それは砲撃についての観察にすぎない。砲台の耐久性を読み違えたのと同じように、彼女は一側面しか見えていなかった。
しばらく考えた後、ライカは《魔導式》を展開し、兵器の破壊を決行した。
下級術での破壊に失敗した以上、手抜かりはできない。その上、魔剣も動きを止めているのだ。
じっくりと破壊できる規模にまで高く仕上げることができる。
「(……にしても、損傷が全くないってのはやっぱり妙だし)」
自分の攻撃に絶対の自信を持っている電撃姫は、飽くまでも原因の究明をしたいと考え、最後の最後まで抵抗するように思考を巡らせていた。 しかし、刻限が先んじて訪れた。
「《雷ノ百二十七番・稲光破》」
上空に紫色の紫電が迸った後、それが稲妻と化し、対象物に向かって打ち落とされた。
「(まさかッ! アタシの術が効かなかったのは頑丈だったからじゃなくて、こっちの電気を吸収してるから――)」
気付いた時には既に遅く、稲妻は磁力の魔剣を捉えていた。
激しい衝突の後、そこに存在していた雷属性のマナが――導力の残滓に至るまで、全てが魔剣へと吸い込まれていく。
「(気付けたはずなのにッ! なんで散らしたはずの雷属性のマナが、あんなに少なかったのかって!)」
そう、彼女が咄嗟に用いたマナでの防御が想像以上の効果を出せなかったのは、単純なマナ量の読み違いが一つの要因でもあった。
本来であれば、術を発動する度にその属性のマナが散り、巫女にとって戦いやすい空間が作られていくことになる。
あの場で使われた術は二百番台をも含めているのだから、普通ならば余裕を持った運用が可能なはずだった。
その瞬時の判断を違えることは、何一つとしておかしいことではない。
なにせ、あの砲撃に反応する為には、思考を挟んでいる暇はなかったのだ。
ただ、あの焦りの余韻により、確認を怠ったのが問題だった。
『……RailCanon,HasBeen...Activated』
砲撃態勢が整い、磁力の魔剣は砲身にスパークを迸らせた。
「(こんな時、どうしろっていうし……)」
刹那の思考の後、彼女の脳裏に男の姿が過ぎった。
「……最っ悪だし」
発射と同時に、ライカは前方に向かって突っ込んだ。
今回は回避の方法もなく、耐えきれるだけの体力もないにもかかわらず、だ。
「(魔剣がこっちの導力とぶつかるなら……できるはず――だし!)」
電撃姫はこの土壇場で、賭けに出た。
戦いが決めるのは一瞬。その瞬間に彼女が最大級の反応、そして賭けに成功しなければ――死ぬこととなる。
紫色の光を帯びた少女の手に、紫電が走った。ソウルが導力となり、密度が高まっていく。
集約された電撃が中級術の如き鋭さを帯びた時、彼女の体は砲撃に――電撃の一閃によって、切り裂かれようとした。
「いまッ――!」




