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砲撃の後、ライカの立っていた場所には、ただ焦土が残るだけとなっていた。
「《雷華の電撃姫》を討ったか?」
隠れて見ていたのか、大陸の乗船員と思われる藍色軍服の男が現れた。
「一時はどうなるかと思ったが、さすがは《皇の武具》の一角、《磁力の魔剣》……」
「へぇ、そんな名前だったわけ。っても、そりゃ剣って感じじゃねーし」
軍服は咄嗟に、腰に差していたサーベルを抜き放つと、攻撃に転じようとした。
だが、反応不可能とも謳われる雷属性を前に、近接白兵戦など愚の骨頂でしかなかった。
白き雷撃は男を貫き、役目を終えたとばかりに大気へと溶けていく。
「……妙に身形のいい格好だし、コイツが指揮官かもしれないし」
彼女の読みはおおよそ当たっており、故にそれに続く思考もおおよそ的を射ていた。
指揮官が一人で動くなど、軍隊ではそうそう見られるものではない。
であるならば、ライカの傍若無人な戦いによって、軍の連絡がズタズタに引き裂かれたと見て間違いないだろう。
ただ、支払った代償は相当に大きかった。
まるで何事もなかったように戻ってきた電撃姫だが、腹部からは大量の出血が見られ、両手についても皮が引き剥がされているような状態だ。
さすがの巫女であっても、ここまでの損傷を受けてただで済むはずもなく、魔力の放出量はそれまでの半分以下にまで落ち込んでいる。
「(ギリギリ防ぎきったけど、これはまずいし……)」
《星》は肉体が子供である為に、いくつかの優位を持っている。
その一つが、甚大な損傷の発生時に痛覚が遮断されるというもの。これはただの人間でも起こりうることだが、彼女らの場合はずば抜けて高い。
想像を絶するダメージを負ったとしても、巫女は戦闘を続行できるように、意識が沈むことがないのだ。
それでありながら、肉体の感覚は十全と変わりなく、ただ痛覚だけがピンポイントに除去される。
死に辿りつくまでは、通常状態とほとんど変わりない状態で戦える、というわけだ。逆に、その境界が皆無であるからして、非常に危険であるとも言えるのだが。
ただし、彼女があの攻撃を耐えきったのは、肉体の頑丈さに由来するものではない。
磁力で逃れることも、追撃で破壊することもできないと読んだ時点で、彼女は直撃を覚悟したのだ。
出せる限りの最大出力で導力を――そして、超微弱なマナを集約し、防御壁として代用したのだ。
その防御力たるは、風属性の中級防御術に相当する。
防御と真逆の雷属性をして、かなりの防御性能にも思えるのだが――これは属性の頂点である《雷の星》、その全力で叩き出される最高数値である。
一度使えば最後、戦力は大幅に削られ、継続戦闘は困難となる。あの場で操作者と思われる男が現れなければ、無駄な延命となっていた。
だが、最大の問題は磁力の魔剣の破壊力だった。防御性能は中級術だが、彼女はそれを最大限に活用できる技術を持っていたのだ。
体の軽量さを利用し、あえて吹っ飛ばされることで衝撃の大部分を逃したにもかかわらず、蒸発を炭化に落とすのが限界だった。
その意味でいえば、この外傷は予期せぬ出費でもあった。ただでさえ減退する力が、ここまで著しくなっているのも、負傷の影響が大きいのだろう。




