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途轍もない熱量の余波を残しながら、音の速度の砲撃はライカの居た場所を過ぎていった。
その一撃が及ぼした影響は計り知れず、発射口から終点に至るまでが焦土となり、地の一部が融解するほどだった。
「……宝具がやべーってのは分かってたけど、あんなバケモノみたいなもんがあるなんて、聞いてな――いや、聞いてたし」
呑気に間の抜けた発言をしているライカだが、彼女は瞬時に導力を用い、磁力によってあの場を逃れたようだ。
余裕の回避にも見えるが、その制御は彼女の意思によるものというより、反射の面が強かった。
違和感を察知した時点ですぐさま逃げ足を用意し、捉えた時には既に回避が実行されていたのだ。
完全攻撃型の彼女がそこまでする必要がある、と感じ取った時点で、あの砲撃が如何に危険かが分かることだろう。
「(雷属性に近いってのも、案外間違いじゃないし。でも、あれはもっと単純な――電気で動いているような感じだったし)」
さすがは属性のスペシャリストか、あの一発だけで兵器の本質を見極めた。
非常に紛らわしい表現にも感じるが、彼女の言いたいことはつまり、これが属性に起因していない攻撃である、ということだった。
マッチで火を起こすことも、扇子で風を起こすことも、電灯で光を発生させることも、全てが属性を元としていないのだ。
故に、雷属性を持つ者を必要としない。電力さえ供給できれば、どんな者でも、最高峰の威力を持つ雷属性の百番――二百番台の術を使えるに等しいのだ。
しかも、属性を元にしていない為に、制御権を奪うこともできない。雷属性の統率者でもある《雷の星》でさえ、こればかりは自力で避ける他にないのだ。
「(さっきはどーにか避けれたけど、次はわかんねーし。ってか、あんな攻撃すんのに、どんだけの電気を使うかもわかんねーし!)」
全く別のことを考え出したようにも見えるが、彼女は彼女なりに状況の分析に努めていた。
ライカの見切りでは、あの一発に消費する電力はこの世界では――雷属性なくしては、賄い切れない量だったのだ。
もし属性使いがいたところで、それは並の量ではなく、莫大な人数と練度を要求される。つまり、あり得ないのだ。
彼女は根本から間違っていた。作戦――それも自分の担当――に関わる兵器のことでさえ忘れるような彼女が、それを聞こうとするはずがなかったのだ。
この巨大な船を動かす動力が、異世界人の世界で恐れられる力であることを。
彼曰く、それは無尽蔵のエネルギーを生み出し。半永久的に効果を維持するという、条理を無視した驚異の仕組みだった。
しかも、それは彼の世界でのこと。《武潜の宝具》は次元を越えることにより、本来の性能よりも強力になった状態で訪れる。
その本質は、おそらく突進魚に渦巻いていた意思――執念のような、元来の所有者達の願望が起因しているのだろう。
「(……っても、考えて分かるようなもんでもねーし、アタシがどーにかするしかねーし)」
知識を持ちながらも、彼女は子供だった。
その本質は愚であり、盲目であり、無謀である。故に、彼女は恐れず、本来であれば与えられたであろう絶望でさえ、ライカは感じ取れていないのだ。
ある意味、《星》が子供であり続ける強さは、ここにあるのだろう。考えが浅く、力を最大効率に使う方法さえ思いつかず、そして恐怖にさえ堂々と立ち向かえる。
不合理であるが為に、彼女らは最高峰の防衛装置として機能しているのだ。
幸か不幸か、発射口までの道のりは確保され、目標地点も明らかとなった。
魔力の存在しない対象の撃破という任務において、索敵が省略されたのは大きく優位をもたらすものとなる。
そしてなにより、電撃姫は完全なまでの攻撃型なのだ。待つや探すよりも、攻める方が得意である。
「(……次が来るし)」
この世界では早々感じられない、歪な磁気の乱れを察知し、彼女は余裕を持って回避行動に移ろうとした。
だが……やはり、彼女は子供だった。
「(っても、逃げまくってんのも、なんだか癪だし。なんなら、一回は直接対決をして打ち破ってやるし!)」
避けられる状況でありながら、彼女はあえて正面衝突を選択した。
勇気こそが強さとは言ったが、それは同時に蛮勇を抱えることに他ならない。
ライカは合理を捨て去り、ただの砲撃を敵対者と捉え、戦おうとしているのだ。シアンが見ていれば、砲台の方を狙えと言ったことだろう。
「(アタシはこっちの世界の、カミナリ最強を張ってんだし。どっから来たかも知れない馬の骨なんかに負けてらんねー!)」
彼女は初撃を躱した時点で、既に《魔導式》の展開を始めていたらしく、相手の砲撃までには上級術を都合し終えていた。
二百番台と目される砲撃を、彼女もまた二百番台――それも同一系統の攻撃で迎え撃つ。
「《雷ノ二百十一番・雷皇砲撃》」
 




