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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
815/1603

2e

 ――フォルティス艦隊、旗艦にて……。


『爆発を確認しました』

「はい。では――全軍突撃です」


 通信を受け、総司令であるシアンは命令を下した。

 その指示はたった一人に向けて発せられたものだったが、次の命令はそうではない。

 旗艦で待機していた船員達は心強い総司令の――《海洋の歌姫》の歌声に耳を傾けた。


 超広域同時通信術――《教皇の聖歌》だ。


 幼いながらに正確な音程で歌い、その音を拡張、拡散していく。

 ただ耳にすれば歌声でしかないが、それを向けられた者達には別のものとして認識される。


『奇襲には成功しました。全軍、突撃を開始してください』


 思考発声のように、彼女の意思が全ての艦に行き届き、その命令に従うように船団が動き始めた。


『フォルティス船団は先陣切ります。速度を早めてください』


 ただ一つの命令で、水の国の船は加速を開始する。彼女の見えない場所では術者達が詠唱をし、水流を生み出しているのだ。

 歌姫はその情景を思い浮かべている。そして、それは限りなく現実のそれと合致していた。


 シアンは知識面においては天才と言える。このミスティルフォードのほぼ全ての情報を知り尽くし、我が物としているのだから当然だ。

 だが、こうした場面の読みは彼女自身が、自らの意思で獲得した能力である。高位の立場にありながらも、彼女は術者達の動きを頻繁に確認していたのだ。


『前方から鈍色の魔物が接近!』

『……減速をお願いします。カイト艦の左舷術者は待避をしながら速度の維持を、迎撃はカイトに任せます』


 報告者の声だけで、それがどこの艦からの連絡なのかを察知した。

 命令文を省くのは愚のようにも思われるが、彼女がそれで良いと周知していたのだ。

 それを判別できるという自負があれば、僅かな発声でさえ省略する。

 これは接触までに余裕を持って報告できるような、卓越した探知型がいない正規軍だからこそ考案された方法だった。


 一つの船が突出して進み、その他の艦が遅れているとあり、魔物はカイトの乗っている船に攻撃を仕掛けた。

 巨大なタチウオ型が水上に胴体を晒すが、その時には既に、跳躍した異世界人が魔物の眼前に迫っている。


 顔が識別できないほどの距離であったが、その戦士は身の丈ほどの大鎚を振りかぶり、鈍色の体目がけて振り下ろした。

 人間が発生させられるとは思えない炸裂音が轟き、巨大な艦が衝突したのではないか、と感じるほどの衝撃によって魔物は沈められた。


「やっぱり、カイトはすごいですね。あの短期間に《狂魂鎚》の能力を使いこなせるようになるなんて」


 これこそが、フォルティス艦隊の切り札だった。

 ラグーンの電撃姫、フレイアの舞姫に匹敵する、フォルティスの魔鎚。

 これによって、シアンが巫女としての力を振るえない状況でありながらも、不足は軽微にすんでいる。


『全艦、減速を解除し――』


 攻勢に転ずるべく命令を行おうとした刹那、カイトのそれを脅かし兼ねないほどの轟音が、海域に響き渡った。


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