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――突撃魚内部にて……。
『ライカ、そろそろ目標地点となります。脱出の用意を』
「……コイツらはどうすんの?」
『それは執念であり、また思念なのですよ。そこに人はいません』
「っても、コイツらは明らかに意思を持って、この船を動かしてるし! そんなヤツらをまとめて吹っ飛ばすなんて――」
『ライカ……あなたも成長したのですね』
味方の兵を容赦なく感電させた電撃姫が、見ず知らずの思念にさえ同情を抱き、その切り捨てを是としない。
これは感情に支配された悪手ではあるのだが、一人の父親として、ラグーン王は感動を覚えていた。
「いやさ、目覚めがわりーなって思ったわけよ。今から敵をブッ潰すって前にさ、そんなことやりたくないって思うじゃん?」
『……はい。問題なく爆破してください』
感心して損をした、と言いたげな態度の父親に困惑しながらも、ライカは辺りを見渡した。
「アンタらも大変じゃね? こんなブッソーな船に乗せられて」
『……』
通信機は床に置かれているが、王もまた、彼女の声を聞いていた。
「アンタらは、なんでそんなに戦いたいんだし」ライカは静かな声で問う。
『ライカ、申し訳ありません』
父親は謝罪をするが、彼の声は届いていなかった。なにせ、受話器に耳を当てていないのだから、音が聞こえるはずもないのだ。
船内は静寂ではなく、音に満ちあふれていた。
『ライカ、目標地点に到達しました。早急に脱出を』
「……っ、はぁーっ! よっし、アンタらにゃ恨みはねーけど、アタシも仕事があるし!」
《魔導式》を展開しようとした瞬間、天井の蓋が急に開け放たれ、内部に海水が流れ込んできた。
「げっ……こんなポンコツだったなんて聞いてないしー!」
『ライカ!? どうしたんですか?!』
ラグーン王の声は途中で途切れ、浸水の進んだ船の中、電撃姫は覚悟を決める。
「(ったく――海面はクッソ遠いけど、どうにかして行くしかないし!)」
彼女の選択したのは、海水が浸水しきった段階で船の外に飛び出し、海面まで泳いで向かうという手だった。
幸いながら、彼女は海に対してのトラウマを持ち合わせいないのだ。
だが、不幸なことに彼女は泳法の心得がなかった。
船内を海水が満たした瞬間、強烈な上昇水流が発生し、彼女の体が海中に投げ出された。
「ッ――」
その勢いは突撃魚を飛び出した後も衰えることなく、彼女の体を水上めがけて運んでいく。
そんな最中、彼女は改めて、その姿を見ることとなった。
黒い船が大陸に向かって突撃していく様を。
その兵器がカルテミナ大陸に到達した瞬間、凄まじい爆発が発生し、ライカはあの船の危険性を体験することとなった。
「(あんなんに入ってたら……間違いなく、死んでたし)」
彼女がそうした考えを浮かべた頃には、ライカは海の出口へと運ばれ、海面から顔を出した。
 




