最強の電撃と異世界の電磁投射砲
――フォルティス艦隊、旗艦にて……。
「……作戦通りですね。あとは、ミネアちゃんに命令を聞いてもらえれば――」
未だに本格的な戦いには発展していないが、哨戒の任を負った眷属などが襲来していた。
シアンの艦で待機していた術者達が一斉に反撃を開始し、彼女が戦う必要はなかった。しかし、それでも落ち着いて作戦を考えられるような状態ではない。
普通の司令官であれば船内に待機するものだが、彼女の場合は観測手としての役割を請け負っている関係から、必然的に敵を目視してしまうのだ。
その上、魔物がこうして人間側と協力する場面は今まで見られず、海上戦に限れば初見の戦法であった。
不安を抱き始めた歌姫だったが、遠くに配置されたフォルティス艦から衝撃が発せられた瞬間、加速した鼓動が落ち着きを取り戻した。
「ライアスさんの一件で、カイトはまた一回り強くなりましたね」
《水の月》ことカイトは、カルテミナ大陸攻略戦より以前、同盟間の連携を磨く期間中に戦友を失っていた。
ライアス、いつかティア達と共にフォルティス防衛戦を戦い抜いた、元王宮騎士の男だった。
幾多の戦いで精神を消耗していたカイトだが、あの衝撃を見る限り、神器の能力を十分に発揮できている。親しい者の死を乗り越えることで、神器もまた主に応えているのだろう。
「決戦の火蓋が切られるのは――ライカちゃんの攻撃が確認されてからですね。それまではあちらも小突く程度でとどめるでしょう」
ミネアという一番槍に全てを任せていそうなシアンだが、彼女もまたこの戦いに全てを賭けていた。
それまで軽視されていた砲撃についても、彼女の指導のもとで三カ国艦の全てが習熟を完了しているほどだった。
白兵戦――これは当然、術での攻撃も含む――主体の戦いと違い、こちらの場合は術の練度の低いものであっても、有効な兵力として数えることができる。
敵が迫るまで戦えなかった兵でさえ、常に全力を出して戦うことができる。それこそが彼女の戦い方、全ての兵を活用しきる用兵術。
突撃魚よる奇襲が成立した時点で、大陸側は三国同盟の潜航突撃を警戒することだろう。それもまた、彼女の計算の内だった。
散漫な注意状態の最中に。、船団が一気に動き出すのだ。その先陣を流体操作を得意とするフォルティス艦隊が担うという時点で、総司令であるシアンの負担は計り知れない。
この奇襲追撃が成功すれば、その時点で勝負は決することだろう。
相手が対応する間もなく、懐に飛び込んだ《雷華の電撃姫》によって翻弄されている内に、フォルティス艦が突撃するのだ。
ライカの重責は計りきれないが、それと同等に、彼女のもたらす結果は戦局を大きく揺るがすのだ。
――だからこそ、シアンは危険な自爆作戦でさえ、実行するに至った。
 




