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「あ? なに?」
『……自動操縦ということは、ライカは手を触れていないのですか?』
「お、おう……それがどうしたっつーの?」
これは完全な予想外だったのか、宝具をよく知ると自称した王は、己の無知を呪った。
『ライカ……そのような機能は搭載していません』
「は? アタシが嘘ついてるって言いてーの? 今こうして──」
『まさか!? 計器の数値はどうなっていますか!?』
彼はこの船の弱点を知っていた。いや、冷静になればライカでさえすぐに気付くことである。
密閉した空間で空気が枯渇すれば、人間がどのような状態に陥るのかを。
「……誰かいる?」
ライカは何かの気配を感じていた。
それは導力や魔力ではなく、ましてはソウルでもなかった。だが、エネルギーの感知に優れた彼女だからこそ、それを見たのだ。
六本の手があるかのように、無数の操縦装置はそれぞれに動き、それを観測する目が存在するように、操作に狂いがない。
客観視点であれば、それが限界だった。
電撃姫の瞳には、この狭い空間の中を走る、無数の強い意志が視覚情報として捉えられている。
それは人の形のようであり、また炎のように揺らめいていた。曖昧で姿の乏しいことから、間違いなく何かしらのエネルギーであった。
「(まるで……アイツみたい。あの時、死にそうになりながらもアタシに挑んできた――)」
生命の煌めき、死の淵にありながらも、生きている人間よりも命を感じさせる強い力。
この空間に在る力もまた、それに類似していた。しかし、エネルギーというにはあまりにも指向性が強く、あまりにも自我が強く現れている。
『……ライカ? ライカ、聞こえていますか?』
「あ、ああ……聞こえてるし」
『進路はそのままで大丈夫です――いえ、むしろ私の連絡は必要ないかもしれませんね』
「どーいうことだし」
外の光景が全く見えない彼女からすると、船が高速で移動しているということしか判断できなかった。
しかし、外界からみれば、これは恐ろしい事象の連続だった。
『信じがたいのですが、突撃魚は大陸に向かって直進しているんですよ。それも、軌道内に別の船が入らないような道を計算して』
「……んなことありえんの?」
『あり得ない、と言いたいところですが、その船は実際にやっているようです。あの船の操作性や視界の悪さ、全てを考えても不可能なはずですが』
当たり前だが、この船は素人を乗せるような代物ではない。高度な訓練を重ねた者が乗り、それでさえ不自由するという次元の兵器だ。
しかし、船を満たす意思は熟達しているかのように、この困難極まる動作をやってのけている。
『まるで執念ですよ』
「は? これはただの船じゃん」
『宝具には未知な部分が多いのですよ。元の世界での記憶、使用者の思念、そうしたものが染みついているということも――あるのかもしれません』
「……っても、あの大陸はアタシらの世界の敵じゃん? なんで異世界の船がそんな奴に敵対心を抱くのさ」
『カイト氏の言い分が正しければ、この突撃魚と大陸は同じ世界から訪れた、ということかもしれませんね』




