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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
800/1603

6r

 ――風の大山脈、決闘場にて……。


 いつか善大王と戦ったそこに、二人は来ていた。

 魔物を退けたばかりだというのに、ティアはガムラオルス以上に元気であり、すぐにでも戦えるといった様子で構えを取っていた。


「ここまで来て言うのもなんだが……こんな時期にすることか?」

「こんな時期だからこそ、だよっ!」


 理解しがたい巫女(・・)の要求に、彼は懐かしさを覚え始めていた。


「(そうだ……昔から、ティアはこうだった)」


 二人が決闘場の中に足を踏み入れた瞬間、「審判もいないし、ガムランの先攻でいいよ」と彼女が唐突にルール説明を開始した。

「侮るな、俺もいままでの俺とは――」


 その少女は何も言わず、じっとガムラオルスの顔を見つめていた。

 言葉はなく、真剣な表情だったことも相成ってか、彼は気圧されるように「分かった」とだけ返答した。

 すると、彼女は再び笑顔を取り戻し「それでこそガムランだねっ!」とかつてのままの調子となった。


 二人が向かい合った位置に立つと、合図役がいないことを思い出し、指定通りにガムラオルスが先制攻撃を行った。

 軽い組み手のような気持ちで放った蹴りは、ティアの刹那の見切りによって回避され、反撃を許すことになった。

 咄嗟に腕で防いだガムラオルスは、その蹴りの重さ、そして彼女の誠実さを痛感することになった。


「(本気、か)」

「ガムラン、それくらいじゃ侮っちゃうよ……私」

「抜かせ」


 こんな戦いで何を本気になる、と考えそうになったガムラオルスだったが、すぐに思考を打ち切った。

 相手が風の巫女である以上、思案しながらではついて行くことさえ困難。本気で挑まなければ、また手痛い一撃を浴びせられることになる。


 反撃態勢で待つティアに対し、ガムラオルスは五指を手刀とし、鋭い突きを放った。

 鷹の(くちばし)の如き刺突は、それ自体が重槍の一撃に匹敵する破壊力を持ち、並大抵の人間なら絶命させるに足るものだった。


「(地上にいる間、俺も遊んでいたわけではないッ!)」


 咄嗟に攻撃の危険性を判断した渡り鳥(・・・)は、この攻撃を紙一重で回避し、踊りのような回転動作に合わせて反撃を叩き込もうとした。

 背面に伸びる足、攻撃の反動も相成って、ガムラオルスには対応不可能かに思われた。


 しかし、彼は瞬時に剣の()を叩き、鞘による反撃返しを行った。

 この奇襲はさすがに読み切れなかったらしく、攻撃の中断も間に合わず、彼女の体に命中した。


「いったぁ……ガムラーン、それ卑怯じゃないかな」

「最初に本気を出したのは、お前だろ」

「……まっ、いいけどね。でも、もうそれは通用しないよっ!」


 重い一撃を喰らったにもかかわらず、彼女は軽い身のこなしで体を起こし、態勢を整えた。


「確かに、ガムランをちょっと侮ってたかも――だから、ここからは本気で行くよっ!」


 それまでカウンター主体で戦っていたティアだったが、本気という前言(ぜんげん)に偽りはなく、攻撃形態に変化させた。


「(正面対決……か)」


 本気という言葉を聞きながらも、ガムラオルスはまだ手を抜いていた――否、そもそもこれは命を賭ける戦いではない故、そうするのは当たり前といえば当たり前である。

 ただ、彼が手札を多く残しているのは明白だった。鞘打ちという裏技を用いながらも、副武装である骨断剣は未だ腰に差したままである。

 もちろん、これはティアとて理解の上。彼女の意図からすれば、彼に剣を抜かせる――本気を出させる為に手を打つことは、おおよそ予測の範疇であった。


 刹那、渡り鳥は地上でその名を轟かせたままに、宙を舞い、空を駆けた。

 これは当然、彼女を形容したものであり、実際に飛行能力を有しているということではない。しかし、だからといって、これが比喩の表現であるともいえない。


 ――彼女の(からだ)は、確かに宙に()ったのだ。


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