7
闇は次第に退いでいき、太陽が昇る。
明るくなり始めるが、善大王は顔に変化はない。フィアはというと、どうやって謝ろうかを考えていた。
既に、エターナルグロウなどどうでもよくなっていた。こうして善大王が謝った時点で清算は済んでいるのではないか、とすら思っていた。
「ここにもないか……まだ結構掛かりそうだな」
「……」
「おい、フィア?」
「……えっ、何?」
考え事に集中し、フィアは善大王の言葉に耳を傾けていなかった。
「どうした? もう眠いか?」
「いや、大丈夫だけど……ちょっとぼーっとしていただけ」
「ならいいが、無理はするなよ。眠くなったら俺が背負ってやるから」
フィアは善大王の心を探ってみるが、自分が謝らなかったことに対する意見を何一つとして持っていないことを知る。
「(もう、許してくれたのかな……なら、エターナルグロウは、もういらないよね)」
王でもある善大王に負担を掛けたくないと思ったフィアは、なかったことにして解決しようとした。
しかし……。
「あっ、あったぞ! ほら、あそこだ」
仄かに光る花を見つけ、善大王は駆け出した。フィアはというと、頭の中に渦巻いている悩みのせいか、歩きのまま向う。
屈みこんでいる善大王の隣で、フィアは花を覗きこんだ。
光を放つ黄色の花、エターナルグロウだ。だが、そこには一輪だけではなく、二輪も咲いていた。
「小さいのと大きいの……まるで――」
不意に出た言葉を封じ込めるように、フィアは口を手で塞いだ。
「ああ、俺とフィアみたいだな」
「……」
フィアは黙って二輪の花を引きぬくと、大きい方を善大王に渡した。ぶっきらぼうに。
「あげる」
「ありがとう。大事にするよ」
受け取った花を懐に収めると、善大王は立ち上がった。
「よし、じゃあ帰るか」
「……待って」
花を見つけ、フィアは自分を恥じた。いや、恥じていたのはもっと前、先に謝られた時からだ。
「ライト、ごめん。勝手に怒っちゃって……無茶しちゃって」
「ああ、許すよ」
善大王は最良の答えで返した。
謝罪の終焉に必要なのは、結局のところ許しだ。相手の罪を認めることにこそなるが、フィアとしてもそれが何よりも欲しかったものだ。
許され、フィアは初めて明るい気持ちで笑顔を見せた。
「ライト、ありがと」
「おう。で、どうする? 帰りは俺が連れて帰ってもいいけど」
「ううん、一緒に歩いて帰りたい」
「そうか」
善大王はフィアの手を握ると、一緒に光の国に向って歩き出した。
「(フィアが自分で気付いてくれてよかった。これなら、真っ当な子になるのもそう遠くないな)」
結局、彼はこの展開を望んでいたのだ。
ただの幼女と遊ぶ時、彼は刹那的な考えを持って動く。その時楽しく、気持ち良ければいい。
だが、フィアに対してはそうではない。今まで人との関わりを避け、正常な考えを失っている彼女に、当たり前をあげたいと考えていた。
それこそ、父や兄のような感覚とも言える。性対象として見ているので、正しくは違うのだが。
「ねぇライト」
「なんだ?」
「……話したいことがあるの」