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「すぐに決着をつける……フィアはそこで座っていろ」
白い法衣が風で靡き、手に握られた光の剣が眩しく輝く。
フィアの目には、それが勇者や王子のように映り込んでいた。顔が見えないのも、それを助長させている。
何も言えずに黙っていると、善大王は凄まじい跳躍力でソルプラントの顔の付近にまで到達した。
「領分に踏み込んだのはこっちの責任だ。だが、お前もやりすぎた」
迫ってくる蔓を剣で打ち落としていき、残った一発を足場にして再度跳ぶ。
顔に乗った瞬間、獲物を捉えるように口が閉じられるが、善大王は小さく跳ねてそれを回避する。再度口が開かれた瞬間に切っ先を真下へと向け、そのまま突きを放った。
深く突き刺さり、抜けきらない状態で蔓が迫り、善大王は弾き飛ばされた。
宙で一回転し、地面に着地した善大王は砂埃を払うように法衣を叩いた。
「これ以上手を出す気はない、退いてくれないか?」
《星霊》は一部を除き、上位種ですら言葉が通じることはない。人間の言葉を理解している可能性こそれど、従う個体などはいないだろう。
しかし、ソルプラントは威嚇しながらも地面に潜っていき、その場から去っていった。
「ふぅ、大人しく退いてくれて助かった」
その光景は、フィアからすればおかしなものにしか見えなかった。
《星霊》を退かせたこともあるが、それ以上に善大王が殺さずに場を収めたこと。こうした時、大抵の人間は《星霊》を撃破する。
それは問題ではなく、撃破された《星霊》はマナに戻るので巫女側からしても文句はない。
ただ、だからこそここまで手間を掛けて倒さないというのが、理解できなかったのだ。
「なんで、倒さなかったの」
「なんとなくな。いつの日か改心してくれるかもしれない、なんて善良過ぎる答えを見つけてしまっただけだ」
それを聞いた途端、フィアは嫌な予感を覚えた。
「それはそうと、なんでこんな遅くにまで出歩いていたんだ? それに、こんな山にまで……フィアの自由を拘束する気はないが、一応はビフレスト王に任されているんだし、無茶はしないでくれよ」
「そんなの、私の勝手……じゃない」
また、意地を張ってしまった。子供だからこそ、フィアは一歩引くことができなかった。
「そうか、まぁそうだな……」
善大王はフィアに背を向けた後、すぐに向き直った。「フィア、昼は悪かったな。お前に構ってやれなくて」
フィアに先んじ、善大王は謝った。
そのせいか、フィアは強い自己嫌悪に陥った。悪いのが自分だと分かりながらも、善大王に謝らせてしまった。心配させてしまった。幾多の考えが頭を過る。
「あまり抱え込むなよ。悪いのはフィアじゃないさ、むしろフィアが悩んでいる
と俺も悲しくなるからさ」
全てを見透かされていると理解し、フィアは考えを止めた。
「それで、何をしていたんだ?」
「エターナルグロウを探してたの……」
「ほぅ、あれは珍しいからなぁ――じゃあ、探すか?」
善大王の笑みを受け、フィアは不意に口許を緩めてしまう。
「ええ」
「眠くはないか?」
「大丈夫」
「なら良い。よし、じゃあさっさと行くぞ」
フィアの手を握った善大王は狭い歩幅で歩きだした。自分に合わせている、とフィアはすぐに察する。
そして、すぐに気付いた。謝る機会を逃してしまった、と。